先月25日午後6時半ごろ、京畿道水原市にある亜洲大学病院の救命救急センターに救急車が駆け付けた。竜仁消防署に所属する救急車だった。患者は50代の女性で、軽い目まいを訴えていた。血圧や脈拍、呼吸などは全て正常で、神経学的な異常も見られなかったため、軽度な患者と分類された。それでも、この患者を救急車で移送するために、3人の救急隊員が同乗し、30分以上もかけてやって来た。患者は救命救急センターで簡単な治療を受けた後、薬をもらって帰宅した。

■軽症の患者、救急車をタクシーのように利用

 亜洲大学病院は、京幾道南部地域の重度の患者を受け入れる、地域の救命救急センターだ。取材陣は、ここ1カ月の間に救急車で同病院に運ばれた患者たちの症状の重さを医療陣と共に分析した。

 計883件の搬送のうち、多発性外傷、脳卒中、心筋梗塞など重度の患者は109件と、全移送のわずか12%にすぎなかった。救急車に乗ってきた軽度の患者の中には、「唇が渇いた」「鼻血が出た」「頭を洗っていたら首からグキッという音がして首が動かなくなった」「耳かきで耳を突いてしまって血が出た」「1センチほどの切り傷が生じた」「腹筋運動をしていたら股関節が痛くなった」「チャンポンを食べたら歯が折れた」「魚の骨が喉に引っ掛かった」「酒に酔って殴られて歯がグラグラする」「薬がなくなった」などというケースもあった。こうした患者を搬送している間に重度の患者からの連絡が入れば、搬送や応急処置が遅れてしまいかねない。

 救急車が出動する場合には、少なくとも2人の救急隊員が同乗する。車両の運営費、医療装備費、救急隊員の人件費などを考慮すると、救急車1台が出動するたびに約29万ウォン(約2万4000円)が掛かる(2008年、保健福祉部〈省に相当〉の研究調査)。現在の物価水準では、40万ウォン(約3万3000円)を超えるだろう。しかし、救急車をまるでタクシーのように利用する状況は、全国どこでも変わらない。昨年12月の1カ月間にソウル大学病院の救命救急センターに救急車で搬送された患者の3人に2人(66%)は、簡単な治療を受けただけで帰宅した。

■病院から病院に移送される重度の患者は非常に危険

 緊急時の119番は、一般人の要請による緊急搬送サービスだ。一方、小さな病院での治療が困難な患者を大きな病院に移さなければならない場合、つまりすでに病院にいる患者が他の病院に移送される場合は民間業者が運営する救急車を利用しなければならない。119番は、病院にいる患者が他の病院に移る際の移送を対象としていないのだ。こうした病院間の移送は医療陣からの要請で行われるため、重度の患者が占める割合が急激に上昇する。しかし、民間が運営する救急車は救急隊員が搭乗しないケースが多く、たびたび問題を引き起こす。

 昨年8月、40代中ばの男性が韓国東海岸でスキューバダイビングをしていたところ、意識不明の重態に陥った。患者は脳挫傷で江陵の総合病院の集中治療室に運ばれた。

 ところが高圧酸素治療を必要とすることから同病院では手に負えず、首都圏の大型病院への移送が決まったが、移送途中で死亡した。患者は重体であったにもかかわらず、救急車には救急隊員や医師、看護婦らが同乗しなかった。患者が心肺停止に陥った際も、同乗していた家族が先にこれに気付いた。緊急医療に関する法律には、民間業者が運営する救急車にも急を要する患者の移送には医療関係者が必ず同乗するよう明記されている。

 しかし、現実はそうではない。救急車を運営する民間企業は救急隊員の不足や経営難などを理由に運転手一人で担当するケースが多い。このような場合は、患者を送る側の病院の医療陣が同乗しなければならない。地域の救命救急センターから病院に移送される患者を担当する応急救助隊員は「小規模の病院は重度の患者を移送する際も、同乗できる医師や救急隊員、看護婦がいないため、運転手と患者だけでやって来るケースが半数近くを占める」と話す。

 民間が運営する救急車は2011年現在、全国に730台あり、1年に9万3000件の移送が発生した。

 救急車を運営する民間企業によると、患者の移送費は17年間も滞っており、救急車に救急隊員を同乗させるだけの経済的余力がないという。酸素濃度測定機や除細動器(心臓に電気ショックを与える医療機器)などが備えられた特殊な救急車は、10キロの移送で基本料金が5万ウォン(約4200円)、それ以降は1キロごとに1000ウォン(約84円)が徴収される。一方、一般の救急車の基本料金は2万ウォン(約1680円)だ。民間業者である京畿救急のカン・デシク所長は「それさえも、ここで経歴を積んだ救急隊員は119番の救急隊員や病院の職員として皆転職してしまう。民間が運営する救急車は信号無視しても警察が見逃してくれず、罰金を支払わなければならない」と苦しい事情を訴えた。

 亜洲大学病院応急医学科のキム・ギウン教授は「救急治療にも対応できる119番の救急隊員は軽度の患者の搬送に全ての時間を費やしてしまう一方で、重度の患者の搬送が大半を占める病院間の移送にはこうした人材が絶対的に不足している。救急車で軽い患者を搬送する際には患者側に一部の費用を負担させ、民間企業の救急車による重度の患者の搬送には健康保険を適用し、品質を管理していく画期的な改善策が急がれる」と説明した。

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