朝鮮時代の学者・朴趾源(パク・チウォン、1737-1805年)が書いた中国紀行文『熱河日記』を読むと、清の先進技術を称賛する記述があちこちに登場する。例えば、旅行中に民家を見学して瓦屋根の家の建築技術に感心している。防水のため瓦の下に泥を厚く塗る朝鮮と違い、瓦だけで防水がきちんとできている屋根は軽く、太い柱を使わなくてもいいため、建物がすっきりしていると高く評価した。オンドル(床暖房)の構造も比較分析した。朝鮮のオンドルの床は泥や石を適当に並べているためすき間ができて熱効率が悪いが、清のオンドルはレンガをきちんと並べるので熱気が逃げずに部屋を暖め、長い間もつ…と、うらやましがっている。

 235年前の朝鮮の天才学者がうらやましがった中国大陸の技術は、その後に歴史的激動期を経て進化の脈が途絶える。共産革命・文化大革命などで中国がさまよっている間に韓国は産業化を押し進め、韓半島(朝鮮半島)の歴史で初めて技術逆転に成功した。しかし、劇的な逆転は現代で幕を下ろそうとしている。市場経済で再武装した中国が、いつの間にか技術大国としても台頭し、韓国を追い越しつつあるからだ。5大輸出産業のうち造船・鉄鋼・石油化学は既に致命的な打撃を受け、半導体・自動車までもが脅かされている状況だ。中国は先進技術が必要な高速鉄道や160人乗り旅客機まで作り、全世界に輸出し始めた。習近平政権は今後5年間で航空機エンジン・脳科学・深海技術・ロボットといった最先端技術を商用化するためR&D(研究・開発)に天文学的な数字の予算を投じる方針だ。

 中国という名のトラの背に乗り、技術優位だと浮かれていた韓国経済は、中国に技術面で逆転された瞬間、お先真っ暗になる。ソウル大学工学部教授26人が書いた『蓄積の時間』で診断されている中国の技術台頭の脅威は恐ろしいほどだ。

 半導体設計分野の権威、イ・ジョンホ・ソウル大学教授は「半導体分野の回路・素子関連で最高の権威を持つジャーナル(専門誌)やカンファレンス(会議)では、北京大学や清華大学の学者の方がソウル大学の学者よりもはるかに多くの論文を発表している」と言った。

 「中国の優秀な学生はほとんど工学部に行く。人口14億人の中から選ばれ、北京大学や清華大学など9つの名門大学に進学する学生だけで約2万7000人に上る。韓国では人口5000万人のうち上位約3000人の学生はほとんどが医学部に進む。こうした優秀な学生を除いて、ソウル大学工学部に入った約1000人が、中国の約2万7000人と競い合えるだろうか」(ソウル大学電気情報工学部ソル・スンギ教授)

 医学部に進んだ人材3000人が医療・医学関連産業を起こすなら話は別だが、病院などの医療産業化は規制に遮られ、身動きできないでいる。その結果、「優秀な人材はみな医学部に行って病院にいるが、全く創造的でない仕事に没頭している」(ソウル大学化学生物工学部ヒョン・テクファン教授)という嘆きも聞こえてくる。

 ヨーロッパの歴史を振り返ると、フランスが産業革命で出遅れ、貧しい農業国だったスイスが製造業大国で生まれ変わったのは、手先の器用なユグノー(Huguenot=カルヴァン派のプロテスタント教徒)の技術者たちが移住したためだった。フランスの宗教迫害を避けて、ジュネーブなどに来たユグノーの職人たちがスイスの時計産業を起こした。産業競争力の要は結局、人だ。核心技術を身に着けた人材の養成と技術上の優位性確保に韓国経済の死活が懸かっている。ソウル大学工学部の教授たちの診断によると、中国大陸の天才たちの追撃を避けられる時間はせいぜいあと5年ほどだとのことだ。

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