ソウル市江北地区(漢江以北)の高校の保健担当教諭Aさん(49)=女性=は今月初め、パワーポイントの資料を用いて性教育を行っていて、冷や汗を流した。Aさんは男女の生徒二人だけが家の中でテレビを見ている絵を見せ「こんなとき、性的暴力が発生したら、どう対処するべきか」と質問した。生徒たちの答えは主に「ほかの友人を呼ぶ」か「親に随時電話をかける」というものだった。だが、教師用指導案に出ていた正答は「二人だけでいる状況を作らない」というものだった。Aさんは指導案に出ている通りに生徒たちに話したが、「そんなの当たり前じゃないか」とからかわれるだけだった。

 問題の資料には、友人同士で旅行に行っていて性的暴力が発生した場合の対処方法については「友人同士で旅行に行かない」と書かれていた。Aさんは「どうでもいいような話をすることで、生徒たちに無視されるような内容の性教育が、果たしてどれだけ効果があるのか分からない」と話した。

 教育部(省に相当)が小・中・高校用に作成した「学校性教育標準案」の一部の内容が非現実的だと指摘する声が出ている。同案は各学校で児童・生徒たちの年齢に応じ、必ず指導すべき性教育の指針を盛り込んでいる。教育部は昨年3月、6億ウォン(約5700万円)を投じて、初めて標準案を作成し、9月には「青少年の教育用としてふさわしくない」と批判された部分や、誤字・脱字、表記法のミスなど150カ所を修正した改訂案を出した。「女性は特定の男性だけに性的な反応を示すのに対し、男性は性的に魅力を感じた女性たちと性交しようとする」といった部分が、青少年の偏見を助長しかねないとの理由で削除された。

 だが、現場の教師たちや、青少年向け性教育の専門家たちは「改訂案にも依然、現実にそぐわない部分がかなり含まれている」と指摘した。中学校の教師用指導案の220ページには、満員の地下鉄で性犯罪の被害に遭った場合「かばんのひもを後ろに長くする」「わざと(加害者の)足の甲を踏む」といった対処法が紹介されている。「幸せな性的文化センター」のペ・ジョンウォン所長は「周囲の人に助けを求めたり、すぐに警察に通報したりするよう教えるのが適切な対処法だ。本当にこのような指導をしていては、授業に集中しなくなるだけだ」と指摘した。

 高校用指導案の233ページには「デートするときに注意すべき相手の言葉」として「酔い覚ましを兼ねて個室ビデオ店で休もう。変なことはしないから」という表現が登場する。匿名を条件に取材に応じた高校の保健担当教諭Bさんは「これでは高校生がデートするとき酒を飲んでもいいということになる。これは成人向けに指導する内容で会って、高校生に教えるものではないと思う」と話した。

 高校用の指導書に登場する「出産と親になる準備」の項目は、女性団体から「性差別だ」と指摘を受けている。この指導書には「母親は適度の運動とバランスの取れた食事を心がけ、父親は禁煙・禁酒に努め、子どもの養育や教育について計画を立てる」と記載されている。韓国青少年性文化センター協議会のイ・ミョンファ常任代表は「出産において、女性は身体を提供する役割を担うだけだという偏見を植え付けかねない」と指摘した。

 教育部は、現在の性教育標準案を基に、来年から幼稚園児を対象とする新たな標準資料を作成すると予告している。これに対し現場の教師や性教育専門家たちは「幼稚園児を対象にした資料を作成するよりも、現行の資料の問題点の修正、補完を行うのが先だ」と指摘した。これに対し教育部は「各界の意見を聞き、問題のある部分は直していく」と話した。

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