「ここはどこなのか、ここにいる方々は誰なのか、誰が自分を起訴したのか」

 ソウル中央地裁の法廷に車椅子に乗って姿を見せたロッテグループの辛格浩(シン・ギョクホ)統括会長(日本名・重光武雄)は20日、自身が裁判を受けていること自体を認識できないような発言に及んだ。辛会長は「責任者は誰だ。自分を法廷に立たせる理由は何だ」とも述べた。つえを投げ、日本語を口にする場面もあった。

 辛格浩統括会長は同日、息子の辛東彬(シン・ドンビン)ロッテ会長(重光昭夫)、辛東主(シン・ドンジュ)SDJコーポレーション会長(重光宏之)、長女のシン・ヨンジャ氏、事実婚関係にあるソ・ミギョン氏ら家族とともに経営上の不正行為で起訴され、初公判に立った。判事が辛格浩統括会長に「裁判中であることが分かりますか」と尋ねるほど、裁判の進行は難航した。

 それは予見されていたことだった。辛格浩統括会長は95歳という高齢である上、認知症がかなり進んだ状態だ。辛格浩統括会長は権利行使を制限する「限定後見」をめぐる一審、二審の裁判で認知症という判定を受けていた。ロッテ関係者は「刑事訴訟法上、認知症でも裁判には出席しなければならない。辛格浩統括会長を認知症と認定した限定後見裁判は民事裁判だったため、刑事裁判には直接影響を与えない」と説明した。

 13万人の従業員と売上高90兆ウォン(9兆円)を誇る韓国5大企業の創業者であっても、罪があるならば裁判で処罰を受けるのは当然だ。しかし、認知症を患い、自分が置かれた状況すら認識できない辛格浩統括会長にとって、同日の公判は犯罪の有無を判断する裁判の場ではなく、認知症患者を公の場で追及し恥をかかせる場にすぎなかった。日本など高齢化先進国では認知症患者に対する配慮は人権問題として扱われる。

 家族が共に起訴され法廷に立つのは「逆差別」だとの同情論もある。ロッテは韓国政府の終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備政策に呼応し、ゴルフ場の敷地との土地交換に応じたところ、中国による集中的な報復にさらされている。10兆ウォン規模の中国事業が吹っ飛ぶ危機に直面しているが、グループトップは出国禁止措置で足止めされ、中国の現場を訪れることもできずにいる。

 昨年検察が辛格浩統括会長を取り調べると、日本でも話題になった。日本の雑誌「SAPIO」は昨年11月、「あまりに過酷な韓国の在日同胞差別」という特集記事で、ロッテに対する検察の捜査を在日同胞出身の企業経営者に対する差別だと非難した。

 SAPIOは「検察が検察幹部の金品スキャンダル、韓国の財閥企業に対する批判を免れるため、スケープゴートとして(在日同胞企業である)ロッテを選んだ」と指摘した。SAPIOは資本不足に苦しんでいた貧困国・韓国に日本で苦労して稼いだ資金を持ち込み、経済成長に寄与した辛格浩統括会長に対する韓国社会の評価の低さも批判した。1960-70年代、在日同胞の資本誘致のための政府によるさまざまな優遇でロッテが急成長したとの見方を指したものだ。しかし、ロッテが韓国に進出した当時、韓国政府はロッテだけでなく、国内の大企業にも投資を促すために優遇を提供していた。SAPIOの記事は一部に誇張、事実歪曲(わいきょく)、こじつけがある。しかし、韓国社会が「流通の巨人」辛格浩統括会長の功績に対する評価には消極的で失敗に対しては厳しいという印象をぬぐい去ることはできない。

ホーム TOP