▲鮮于鉦(ソンウ・ジョン)論説委員

 一昨日の午後、取材を兼ねてソウル市中心部の繁華街・明洞に行ってみた。中国人観光客が一気に見られなくなったと聞き、実際のところどんな様子なのか気にはなっていた。見たところ予想以上に人通りは多かったが、店はあまり繁盛しているようには見えなかった。それからしばらく歩いていると、かつての明洞とは明らかに違っていることだけは改めて感じた。行きつけの飲食店でチゲを注文したが、この店も数年前からどこか味が変わっていた。かつては日本人、その後は中国人観光客の好みに合わせるため、店本来の味を変えていたのだ。化粧品店の店員が客を呼び込もうと叫ぶ中国語もどこかもの悲しく聞こえた。

 もちろんこれらの変化は店の責任ではない。かつてはソウルでのショッピングの代名詞だった明洞だが、江南の発展と共に客がそちらに流れ一時はもう衰退するかと思われたが、そこに韓流ブームに乗って日本人が大挙押し寄せたため、商業ビルのオーナーたちはたちまち家賃を上げた。次に中国人観光客が押し寄せると、ビルや店の家賃はまた上がった。それでも店主たちはこの明洞で生き残るため、外国人観光客の好みに合わせて新しい料理や商品を次々と開発し、売り上げを上げていくしか道はなかった。それができなければ即座に廃業だ。するとその場所には安物の化粧品ばかり大量に扱う店や、大手外食チェーンがやって来た。このあまりにも露骨で生々しい経済論理が10年以上にわたりこの商業地を支配した。その結果、かつての粋な雰囲気も伝統も完全に失われてしまった。これがまさに今の明洞の姿だ。世界のどの国にもショッピングの代名詞となる商業地区はあるが、明洞のようにある意味退化してしまったようなケースはそうないはずだ。

 ただこれは明洞に限った話ではない。韓国と中国の交流が経済から政治にまで及び、徐々に関係が緊密化すると、韓国人と中国人は同じ酒の席で「われわれは心を一つにして力を合わせ、日本人の野郎を打倒しよう」と叫びながら乾杯した。これは一時両国の酒の席でよく使われた乾杯の音頭だそうだ。この話を冗談のように日本人の知人に伝えた。酒の席でのちょっと大げさな冗談だが、この知人は「同じ民主主義の国なのにそんなことがあり得るのか」と非常に驚いた様子だった。この日本人は「韓国と日本はどちらも米国の同盟国だから、韓国と日本は友好国ではないのか」とも言った。そのあまりの純粋な驚きにかえって記者の方が驚いた。

 10年ほど前までなら日本にこのような人は多かっただろう。「日本と北朝鮮がサッカーの試合をすると、韓国人はほとんどが北朝鮮を応援する」と話すと「失望した」と言う日本人もいた。「民族とイデオロギーに対して韓国人には二重の考え方があり、そしてその根源にはかつての日本による支配というつらい歴史がある」と説明しても、日本人には理解できないようだった。韓国政府が「東北アジアのバランサー論」を掲げると、日本人は「米中のバランサー? 韓国は米国の同盟国じゃなかったのか」と言って驚く。日本も米国の同盟国だ。同盟を維持する以上、日本はそんな夢物語など考えもしない。今振り返ってみると、このように原則を重視する日本の考え方の方がわれわれよりも正しかったようだ。

 ここ数年、日本は韓国が話題になると必ず「中国傾斜論」を指摘した。韓国の立ち位置が少しずつ中国側に寄り始めているという意味だ。韓国の大統領が一昨年、中国・北京の天安門に上がった時がおそらくその絶頂だったのではないだろうか。日本は同盟の原則を重視するが、われわれは日本こそ韓米関係に亀裂を生じさせていると考えた。両国の識者が席を共にして議論する場を取材すると、日本側は必ず韓国の中国傾斜を指摘したが、そのたびに記者は「少しばかりの経済的な利益を手にするためではない。統一のためだ」と反論した。しかしこのような訴えは誰にも響かなかった。米国人や日本人はもちろん、中国人もこの主張には耳を傾けなかった。統一について真剣に考えるのは韓国だけだった。孤独だった。韓国の言い分は「強大国のゲームに巻き込むな」という叫びでもあった。一昨年、われわれが「統一を実現するため大統領が天安門の上に立った」と主張した時、その後ろで中国は腹を抱えて笑っていただろう。それを考えると今でも恥ずかしい。ところが中国はわれわれに対するとき、表向きはこちらの言うことなら何でも聞いてくれそうな雰囲気だったのは確かだ。

 先日、米国のティラーソン国務長官が日本について「最も重要な同盟国」と表現し、韓国は「重要なパートナー」と言った。こんなことをわざわざ口にする必要などなかったし、もしかすると外交的なミスだったかもしれない。しかしこれは驚くべきことではない。米国が考える韓国と日本の価値にそれだけ大きな違いがあるのは事実だ。米国が太平洋周辺諸国と結んだ軍事同盟の中で、最初から米国自身が願っていないのは唯一韓国との同盟だが、この事実を認識している韓国人はほとんどいないだろう。われわれの上の世代が米国と激論を交わし、しがみついてやっと手にしたのが韓米同盟であり、もしこの同盟がなければ韓半島(朝鮮半島)は今の中東地域のように紛争が絶えない地域になっていたはずだ。しかしこの事実も普通の韓国人はほとんど理解していない。そのためこの同盟は韓国自ら動いて強化しなければ維持されないだろう。それを韓国人は知っていても知らないふりをするばかりでなく、歴史的な事実から顔を背け、韓国人自ら韓国の価値を過大評価ばかりしている。そのため米国が韓国を日本と同じくらい重視しなければ「差別だ」と言って興奮し激怒する。これが韓米同盟に対して韓国の取ってきた行動パターンだ。

 今、明洞は韓国を象徴する自画像になった。中国人観光客を呼び込むため彼らの好みに合わせて変わっていった結果、明洞は本来の姿を失った。中国人が去った後、自分を振り返ると自らの立ち位置を失ってしまったのが明洞だ。それでも一部の政治家は中国人客を呼び込む化粧品店の店員のように、いまだに中国への未練を捨てようとしない。これほどの仕打ちを受けながらも、彼らは「中国は話が分かる相手だ」と信じている。「バランサー」の夢から今も覚めていないのだろう。韓米同盟は空気と同じく「あって当然」だから米国に気を使うことはしないが、それでも米国はこれまでと同じく韓国を無条件で理解し助けてくれると考えているし、国民の多くもそんな考えを持つ政治家を応援している。世の中は東に向かって進んでいるが、韓国だけは西を向いて走っている。大統領選挙の結果が出た後にならないと国民はその逆風を理解できないのだろうか。

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