「転覆した伝馬船の中には7体の遺体が、船の外には投げ出された2体の遺体がありました。いずれも骨が飛び出した状態でした」

 京都府舞鶴市の小橋漁港で最近会った市の関係者は、昨年11月に海岸の岩場で発見された北朝鮮の小型木造船の状況をこのように説明した。この船は全長12メートル、幅3.1メートル。船内や船外のあちこちに、かなり腐敗の進んだ遺体が散らばっていたという。「平壌」と書かれた着衣や北朝鮮の紙幣を見て、北朝鮮の木造船と確認した。この関係者は「日本の西部沿岸には北朝鮮の木造船がひんぱんに漂着するので、一目で北朝鮮の船だと思った。日本では、あそこまで古くて小さい木造船は使わない」と語った。現地の警察による検死解剖の結果、9体の遺体は3カ月前に死亡した男性のものだった。

 このように白骨化するなどした北朝鮮住民を乗せて日本に流れ着く木造船の数は、2013年から今年5月までの間に合計277隻にもなる。日本メディアは海上保安庁の資料などを基に、2013年以降に漂着した北朝鮮の木造船の数を報じている。日本政府の当局者は「遺体で発見された北朝鮮住民の数は、外交問題などを考慮して公開していない」と語った。東海大学の山田吉彦教授は「シベリアから日本に向けて風が吹く冬場に、こうした船が(日本海を漂流して)日本へ流れ着く」と語った。そのまま日本海に沈んだりして統計に反映されない「北朝鮮の白骨船」の数は、ずっと多いと推定されている。生きて日本にたどり着く北朝鮮の漁民はほとんどいない。咸興・元山などから出発した場合、少なくとも2カ月以上、1000キロも海を越えて日本へ流れ着くことになるからだ。現地の漁民は、こうした船を「白骨船」「幽霊船」と呼ぶ。

 北朝鮮の白骨船が年におよそ60隻も日本に出没しているのは、金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長が14年1月に「魚の台風を作り出せ」と指示を出したことに加え、金正恩政権樹立(12年)以降、市場の活性化に伴い、売りに出す魚を取らなければならない漁民の経済的な切迫感も重なった結果と解されている。聖学院大学の宮本悟・特任教授(北朝鮮政治)は昨年末、NHKの番組で「金正恩委員長による『魚の台風』指示の後、漁民が無理に海へ出ている。レーダーやGPS(衛星利用測位システム)を持たない小型木造船が大海原で悪天候に遭遇したら、結局は潮に流されて日本の沖へと流れ着く」と語った。

 近ごろの脱北者によると、北朝鮮東部沿岸は過度の漁労のため魚がほとんどいないという。結局、遠くの海へ乗り出さなければならないが、北朝鮮の漁民が乗る木造船には小型のモーターしか付いていない。2-3日分の水と食料だけを準備して何十キロも沖まで出漁するので、風浪や強い潮の流れに遭遇したら、すぐに死の漂流が始まる。ある脱北者は「韓国の海警や漁船に見つかった北朝鮮の漁民は、天運に恵まれた存在。ほとんどは魚の餌になるか、白骨で日本に着く」と語った。小橋漁港の近くで北朝鮮の木造船を目撃した漁業者の一人は「こんな丸太みたいな船に乗って漁に出るなんて、とても信じられない。朽ち果てた木造船の姿が、北朝鮮の未来のように見えた」と語った。読売新聞は今年4月「北朝鮮の木造船が使っている小型エンジンや漁具などは、日本では30年も前に使っていたもの」と伝えた。

 白骨と化して日本に到着した北朝鮮漁民の遺骸は、ほとんどが故郷に戻ることもできない。費用などの問題で、北朝鮮当局が引き取らないからだ。こうした遺骸は、火葬されて地域の寺などに保管される。一部の遺骸だけが、朝鮮赤十字会の要請で北朝鮮に戻る。なお、日本は遺骨を返還する際に船の廃棄や火葬の費用などとして200万-300万円を請求するが、実際に支払いを受けることは期待していないという。

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