米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」のレーダーから発せられる電磁波について、韓国国防部(省に相当)はこれをTHAADが配備される慶尚北道星州郡で測定する計画を進めていたが、21日になって突然取りやめた。

 国防部が測定を行おうとした際、電磁波の有害性を訴え配備を妨害してきた複数の団体が理由を明確にしないまま「測定計画を撤回せよ」と要求し、国防部がこれを受け入れたため、この日予定されていた測定は無期限保留となった。THAAD配備に反対する団体や地元住民は「電磁波が自然生態系を破壊する」などと主張してきたが、その言い分を政府が受け入れ、解決策として一種の「公論化」を進める目的で今回の測定計画が持ち上がっていた。団体側の反発を受け測定を取りやめた国防部はこの日「現時点では電磁波の測定を改めて行う計画はない」とコメントした。

 国防部関係者などの間からは「反対する団体の妨害によって電磁波の測定もできないようでは、公聴会などを含む環境影響評価の手続きを今年中に終わらせることなどできないだろう」「政府がこれほど弱腰では、原発建設工事の中断など、他の問題でも公論を集約して政策を決めるのは簡単ではないかも知れない」などの指摘が相次いでいる。

 国防部の徐柱錫(ソ・ジュソク)次官は今月6日、THAADが配備されている慶尚北道星州郡と隣の金泉市を訪れ「地元住民の意見を集約した上でTHAAD配備を進めていきたい」と述べ、「住民が参加する電磁波測定」を公論化に向けた方法の1つと考えていることを明らかにしていた。

 昨年7月に星州郡がTHAAD配備地に決まると、巷では「THAADレーダーから出る電磁波は人体や農作物に悪影響を及ぼす」などのデマが広まり始めた。これが事実でないことはすでに明らかになっているが、それでも今なお電磁波に対する不安をぬぐい切れない住民がいることに配慮するための措置だった。

 測定の決定を受け、国防部は地元の自治体や議会関係者、住民、メディア関係者など45人が見守る中、基地内の3カ所に加え、基地がある星州郡や隣接する金泉市など周辺の7カ所で電磁波を測定する計画を進めていた。測定について在韓米軍の理解を得た国防部は、先週から地元住民の代表や反対する団体などにこの測定に参加するよう呼びかけた。団体は国防部から要請を受けた際、当初は「団体間で話し合いたい」として明確な回答を避けていたが、今月18-19日ごろになって測定反対の意向を明確にし始めた。

 また20日にはTHAAD配備撤回星州闘争委員会、THAAD配備反対金泉市民対策委員会、円仏教星州聖地守護非常対策委員会、THAAD韓国配備阻止全国行動、THAAD配備反対大邱慶北対策委員会などが地元の公民館前に集まり、「電磁波測定は受けいられない」とした上で▲電磁波測定計画の即時取消し▲戦略環境影響評価の実施▲THAAD稼働の即時中断とTHAADの撤去-などを改めて訴えた。当初は地元住民の中に測定を前向きに受け取る声もあったが、各団体が測定反対を扇動した影響で、住民の間でも測定反対の声が圧倒的に大きくなった。

 しかしどの団体も測定に反対する理由については明確にはしていない。現地の警察関係者は「電磁波に有害性がないことが知られると、どの団体も自分たちがTHAAD配備に反対してきた大義名分が弱まってしまうため、これを懸念して『何が何でも反対』と主張し始めたようだ」との見方を示した。国防部は当初、19日に実施予定だった測定の日程を一旦21日に延期して説得にあたったが、どの団体もこれに応じなかった。国防部は測定をさらに1週間延期する案も検討したが、結局は測定計画そのものを取りやめた。

 国防部の文尚均(ムン・サンギュン)報道官は「地域団体の反対があり、また地元住民の間でも合意が形成されていない」とした上で「当初は測定の際に住民の立ち会いを保証する約束を交わしていたが、関連団体の反対によって実行が難しい状況にある」などと説明した。電磁波を測定し、同時にその現場を公開することの目的は住民の懸念を解消することにあったものの、「住民が望まないのであれば、強行する理由はない」と国防部は考えたようだ。国防部の関係者は「もし強行した場合、また新たな対立の火種になりかねないとの判断もあった」とコメントした。

 電磁波の測定は、THAAD配備に対する住民の理解を得るための比較的容易な方法だ。測定機器さえあれば数値が表示され、その場で安全性が確認されることから、その結果について議論の起こりようがないからだ。むしろ問題は今の文在寅(ムン・ジェイン)政権が公言してきたTHAAD配備の「手続きの正当性」を確保することであり、そのためには今回の電磁波測定よりもはるかに複雑な「公論化」の手続きを踏まねばならないことだ。その代表的なケースが環境影響評価を受ける際に開催が求められる「住民公聴会」だ。THAAD配備に反対する団体などが住民と協力して反対運動を続けた場合、説明会や公聴会が開催されても現場が混乱し、後にまた再開されるというパターンが繰り返されるだろう。そうなれば結局はより多くの時間がかかる可能性が高くなってしまう。

 野党からは「政府が掲げる『公論化を通じた決定』の意図を示すものだ」などの声も聞こえてくる。慶尚北道選出のある国会議員は「政府の本音は『住民の反対』という『作られた世論』を利用し、これによってTHAAD配備の中断、そして原発工事の中断を進めることだ」「電磁波の測定という非常に簡単なことさえやる気がないのであれば、もっと複雑な環境影響評価、あるいは原発工事中断に向けた公論調査を年内に終わらせることなどできるわけがない」などと指摘した。

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