「母はずっと『公務員、公務員』と言っていました。映画館に行ける懐具合ではありませんでしたが、テレビの映画は必ず見るくらい映画が好きなのに、息子には『映画は趣味にして、就職では給料がきちんと出る公務員になって』と言っていました」

 是枝裕和監督(55)=写真=は今、世界の映画界で最も注目されている日本人監督だ。『誰も知らない』(2004年)、『海街diary』(15年)などでカンヌ国際映画祭のパルム・ドール(最高賞)候補になり、『そして父になる』(13年)は同映画祭の審査員賞を受けた。是枝監督の母親は、息子の映画が出るたびにビデオテープを買って近所の人に渡したという。

 ファンは是枝監督の温かい家族の話に慣れ親しんでいるが、監督が今年、釜山国際映画祭に出品した映画は意外なことに自身にとっても初の法廷物である『三度目の殺人』だ。今年のベネチア国際映画祭コンペティション部門の招待作でもある。19日に釜山市海雲台区内の「映画の殿堂」で会った監督は「十数年間『ホームドラマ』を手がけてきたのは、母を亡くしたり、子どもができたりして、個人的な変化を経験して『家族』が最も切実な創作モチーフになったからです。でも、もう少し視野を広げてみました。今の社会にとって最も切実な話は何でしょうか。人が人を裁くこと、悲劇と不義に対して見えないふりをする『裁かれない罪』を問う映画を作りたかったんです」と言った。

 殺人を自供した三隅(役所広司)と、やむを得ず三隅の弁護を引き受けた弁護士・重盛(福山雅治)の物語。二度目の殺人だということで死刑は免れないと見られたが、小さな真実のかけらの食い違いが明らかになり、重盛は混乱する。そして、さらに悪い状況へと巻き込まれるように、三隅に同化されていく。是枝監督は「2人の男が拘置所の接見室でガラス越しにする会話が中心ですが、劇の緊張感が高まる軌跡が、2人をとらえるカメラアングルに出るように、現場に絵を描いて貼り付けて調節しました」と説明した。

 この映画は、判決に有利か不利かばかり考える司法制度の盲点や死刑制度の正当性を問うている。不確実な世界において善悪の問題は可能なのか、真実の一部分だけを見て人は他人を裁けるのかなど、さまざまな問題が含まれている。是枝監督は「答えは映画を見る観客の数だけあるでしょう」と言った。「弁護士7人にアドバイスをしてもらいましたが、そのうちの1人が『法廷は真実を明らかにする場ではなく、利害を調整する場だ。どうぜ真実は私たちには分からない』と言いました。では、どんな人が他人を裁けるのでしょうか? 逆説的に真実を知るため動く弁護士の物語を構想しました」

 一緒に仕事をしてみたい韓国人俳優を尋ねると、是枝監督の口からは次々に名前が挙がった。「私の作品『空気人形』(09年)で主演したペ・ドゥナさんが日本に来ると、今も一緒にお茶を飲みます。今や国際的な女優さんになりましたが、いつかまた会いたいですね。ハ・ジョンウさん、カン・ドンウォンさん、ソン・ガンホさん…。先日、『MASTER マスター』を見てイ・ビョンホンさんにまた違う魅力を感じました。『新感染 ファイナル・エクスプレス』の少女キム・スアンさん、『わたしたち』で主演した2人の少女(チェ・スイン、ソル・ヘイン)と弟(カン・ミンジュン)は本当に天才ですね!」

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