「クリントン大統領、ちょっと」。韓国大統領府(青瓦台)での夕食会を終え、出ていこうとしたクリントン大統領を、金大中(キム・デジュン)大統領が呼び止めた。クリントンに近寄った金大中が、声をひそめて言った。「大事をなす男には、思いがけない苦難が付きまとうものです。あなたはうまく克服していくと信じています」。

 クリントンが韓国を訪れた1998年11月は、彼にとって試練の季節だった。ホワイトハウスのインターンとのセックススキャンダルは頂点に達していた。特別検察官は、クリントン大統領が11項目の法律に違反し、弾劾事由に相当するという報告書を出した。訪韓直前、米国連邦議会下院で弾劾手続きが始まった。やがてホワイトハウスから出ていかなければならないかもしれない、そういう境遇だった。

 金大中は、そんなクリントンを「慰めるという観点から」、新たな方法で夕食会を準備するよう指示した。歌手・俳優・芸能人・運動選手を青瓦台の夕食会に出席させるという、当時としては異例の手を打った。夜10時20分まで続いた夕食会が終わったとき、金大中は温かい慰めの言葉を掛けた。同時間帯に開かれた「韓米親善のためのKBS放送開かれた音楽会」には、無名に近かったクリントンの異父弟の歌手を出演させた。クリントンはこれを喜び、夜11時にもなろうという時間に、音楽会が開かれていた世宗文化会館を突然訪問した。

 金大中は、自分よりだいぶ年下のクリントンの心をつかもうと綿密に準備した。その結果、南北対話の過程で米国の支援を受けることができた。「太陽政策は、北朝鮮へのバラマキ」だとか「金正日(キム・ジョンイル)総書記を助けてやった」といった非難を生んだ。だがこれとは別に、金大中がクリントンの心をつかむために傾けた努力は評価に値する。

 11月7日から8日にかけてのドナルド・トランプ大統領の訪韓は、無難に進んだという見方が多い。会談前に噴出していた懸念は、ほとんどが杞憂(きゆう)に終わった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は青瓦台で予行演習まで開き、トランプ歓迎に心を込めた。さらに、韓国が建設費用の92%を負担した米軍基地キャンプ・ハンフリーズに出向いてトランプ大統領を迎えたのは、今回の会談のハイライトだった。

 それでも、トランプ大統領の訪韓が韓米両首脳間の関係をどれだけ緊密にしたか-という面では、振り返ってみる必要がある。トランプ大統領の訪日とあらためて比較してみよう。トランプ大統領は今月5日夕、ゴルフを共にした安倍晋三首相と都内の鉄板料理の店で向かい合った。トランプ大統領は「米日の強い北朝鮮圧迫の意志は一致している。韓国がついてくることが重要だ」と言った。安倍首相も「それが重要だ」と調子を合わせた。日本メディアが報じるこの場面は、米日首脳が互いにファーストネームで呼び合うだけでなく、韓国をどのように動かすかを相談するほどになったことを示唆している。安倍首相はトランプ大統領への過度な密着で一部批判されたが、韓国人にとっては、ぞっとするほどうらやましい場面にほかならない。「ドナルド」と「晋三」は、7日の青瓦台の夕食会に元従軍慰安婦が出席することまで話題にした。推測だが、トランプ大統領は元従軍慰安婦と会うことについて事前了解を求めた可能性が高い。それに比べ、夕食会場の元従軍慰安婦や独島(日本名:竹島)エビで自尊心を表現するような青瓦台のPR法は、見ていてやるせない。国務省の韓国課長を務めたストラウブ氏は「首脳夕食会の一部の企画は不適切だった。韓日間の問題に米国を引き込もうとするのは正しくない」と語った。

 トランプ大統領は、就任後10カ月間で62回もゴルフをプレーするほどゴルフ好きだ。元従軍慰安婦の代わりにLPGA(米女子プロゴルフ協会)で活躍している韓国人選手を招待した方が効率的だった、と考える人も少なくない。事前にコンセンサスができていた非武装地帯(DMZ)訪問も、お粗末な準備で座礁させてはならない事案だった。トランプ大統領訪韓初日、一緒にヘリに乗ってキャンプ・ハンフリーズを訪問していたら、ずっと良かっただろう。

 登山家がよく使う「頂上」(サミット)を外交用語として初めて使った人物は、英国のチャーチルだ。彼は「外交関係を維持する理由は、(困難なときに備えて)便宜を確保しておくため」と語った。彼の言葉の通り、外交の最大の目的は有事の際における安全弁の確保だ。首脳外交は言うまでもない。距離感を縮めることができない「無難な会談」だけでは、「6・25戦争(朝鮮戦争)後最大の危機」を乗り越えることはできない。韓国の首席外交官・文在寅とそのブレーンの認識転換、首脳会談戦略の開発が急がれる。

ホーム TOP