先日大統領府本館で文在寅(ムン・ジェイン)大統領が主席秘書官らと笑顔で記念撮影を行った写真が複数の新聞に掲載された。昨年光化門広場で行われた「キャンドル集会」をテーマに民衆芸術家といわれるイム・オクサン氏が描いた大型の絵画の前だ。その絵の中には「朴槿恵(パク・クンヘ)を逮捕せよ」「だまれ、OUTだ」などと書かれたプラカードも描かれている。大統領府を訪れた海外の首脳らも行き来する入り口に、このようにあからさまな言葉が書かれた絵画を設置することに品があると言えるだろうか。文大統領は今年5月9日夜、大統領選挙での勝利が確定した直後にソウル光化門広場で行った演説で「私を支持しなかった人たちにも仕える統合大統領になる」と語ったが、その様子は今も記憶に新しい。ところがその大統領が「政府の精神に一致した絵」などと自ら解説し、この絵画の前で堂々と記念撮影まで行った。もはや言うべき言葉も見当たらない。

 イム・オクサン氏は2012年と17年の大統領選挙でいずれも文大統領を公然と支持したことや、朴槿恵政権当時は文化芸術界のいわゆる「ブラックリスト」にその名が掲載されたことなどで知られる人物だ。光化門でのキャンドル集会にも姿を現し、ブラックリスト問題の真相解明を訴えるパフォーマンスも行った。このような人物の作品が今回、権力の心臓部とも言える大統領府本館ロビーに設置されたのだ。かつてのブラックリストも今や勝者の腕章のように見なされているだけに、この絵画が大統領府に設置された事実も非常にドラマチックだ。

現政権発足後に進められた文化芸術関係のさまざまな人事では、文大統領の選挙陣営にいたか、あるいは現政権とコード(考えかたや感じ方)が一致する人物の台頭が際立っていた。例えば盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の初代文化部(省に相当)長官を務めた李滄東(イ・チャンドン)監督の弟で、映画界では文大統領と親しいことで知られるナウフィルム社のイ・ジュンドン氏が映画振興委員会の委員に加わった。この委員会は年間600億ウォン(約62億円)近い支援金を各方面に出すことでも知られる。また左翼偏向として問題となった高校韓国史教科書の執筆者代表を務め、国定教科書反対運動の先頭に立った祥明大学の朱鎮五(チュ・ジンオ)教授は大韓民国歴史博物館の館長に就任した。

 年間2300億ウォン(約240億円)の政府予算を文化芸術界に支援する文化芸術委員会の委員長には、高麗大学の黄鉉産(ファン・ヒョンサン)名誉教授が事実上決まったようだ。黄氏は今年5月の大統領選挙直前「文在寅候補を支持する文学人宣言」の中心メンバーだった。崔順実(チェ・スンシル)受刑者による国政壟断(ろうだん、利益を独占すること)の根源地となった文化コンテンツ振興院の院長もダウム企画のキム・ヨンジュン元代表の就任がほぼ決まった。キム・ヨンジュン氏も2012年と17年の大統領選挙では文在寅候補陣営で活動していた。ダウム企画は文大統領から厚い信任を得ているタク・ヒョンミン大統領府行政官が02年から本部長を務めてきた。キム・ヨンジュン氏はキム・ジェドン氏やユン・ドヒョン氏のバンドが所属するこの芸能事務所の代表を務め、ブラックリスト問題が表面化すると、本人たちを代弁してマスコミに自分たちの主張を訴えていた。現政権の内閣が大統領選挙陣営出身者、コード、与党「共に民主党」関係者ばかりとなっている現状から考えると、今後も文化芸術関連の政府機関や団体もこのような形で人事が行われることは間違いないだろう。

 李明博(イ・ミョンバク)・朴槿恵(パク・クンヘ)政権でも大統領選挙陣営の出身者がその後の文化芸術関連の政策や組織に深く関与したため、今回も特に問題はないとする見方もあるだろう。しかし現政権がこれまでと違うことは、前の政権での政府関係者あるいは少しでも関与した人物を全て「積弊勢力」として排斥し、その後を自分たちの息のかかった人物ばかりで埋めたという点だ。その影響だろうか、権力者たちと関係を持ちたいと考える文化人や芸術家たちも徐々に増え始めている。「反逆者を処罰する」などと言っていたかと思えば、今度は自分たちも同じ反逆の道へと進もうとしているのだ。

 暴君として知られる光海君を除去するとの大義名分を掲げ、仁祖反正(光海君を追い出して仁祖が王位に就いた朝鮮王朝時代の政変)に成功した功臣らに対する民衆の思いについて朝鮮王朝実録には「勲臣たちよ、いい気になるな。彼らの家に住み、彼らの土地を手にし、彼らの馬に乗り、また彼らがやっていたことを繰り返しているようでは、お前たちのやっていることは彼らと何が違うのか」と記録している。仁祖反正の際、前の権力者たちとそれを追い出した反正勢力は実のところ何も違いがないということだ。「ブラックリスト」への抗議とキャンドル集会への参加を勲章のごとく見なし、文化・芸術分野での権力に群がる彼らは、このような名も無き民衆からの問いにどう答えるのだろうか。

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