国際仲裁裁判所(PCA)が2016年、中国による南シナ海の領有権主張を認めない決定を下すと、中国のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)では「フィリピン人を飢え死にさせろ」だとか「フィリピン商品の不買運動を」などとあおる書き込みが相次いだ。フィリピンが中国を国際仲裁裁判所に提訴したことをきっかけにこのような書き込みは目立ってきたが、これを実際に行っていたのは主に「五毛党」と呼ばれる中国政府の指示を受けて動く「ネット書き込み部隊」だった。ネットで1回書き込みを行うたびに5毛(毛は10分の1元、約9円)がもらえることから付いた名称だ。構成員は1000万人を上回るという。

 独島(日本名、竹島)研究で知られる世宗大学の保坂祐二教授の名前をヤフー・ジャパンで検索すると、保坂氏を侮辱するブログや書き込みが数百件表示される。「売国奴」などの非難から「家族が誰か気になる。妻や子供は」といった家族への脅迫をほのめかすものもある。保坂氏は家族に害が及ばないよう妻や子供の名前は公表していない。ただしネットでの攻撃は韓国の方が日本よりもはるかに上だ。例えば文在寅(ムン・ジェイン)大統領や与党・共に民主党などを無条件擁護するいわゆる「ムンパ」をネットで批判すると、逆にじゅうたん爆撃を思わせるほど激しい攻撃を受けるからだ。

 共に民主党に所属する3人の党員がインターネット大手検索サイト「ネイバー」のニュース記事へのコメントに付いた「いいね」の数を操作した容疑で逮捕された。平昌冬季オリンピック女子アイスホッケー南北合同チーム関連の記事へのコメントで「文化体育観光部(省に相当)、大統領府、与党全ての失敗」「汗を流した選手たちに何の罪があるのか」といった書き込みに容疑者らは「いいね」を大量に付けたのだ。その手口はまず600以上のIDを確保し、それに特殊なプログラムを利用して上記の書き込みにいいねを自動的に付けるというものだった。容疑者らは警察の取り調べで「保守勢力が操作したように見せかけようとした」などと供述しているという。

 これが事実なら、今後文在寅(ムン・ジェイン)政権を批判する書き込みに付いた「いいね」は全て「うそ」というレッテルが貼られるだろう。これほど頭が良いのなら、何か他の仕事をしていれば大成功したのではないだろうか。2カ月前にこの問題を最初に取り上げたのはインターネット放送「ナヌン・コムスダ(私は小ざかしいの意、通称ナッコムス)」のメンバーだったキム・オジュン氏で、自らが司会を務めるSBS放送の時事番組「キム・オジュンのブラックハウス」でのことだった。ところが結果は自らの足下に火を付けるものとなった。

 ネット書き込み部隊を韓国の情報機関・国家情報院も直接管理していた。そのため国家情報院がいいねの数を操作したとして大問題となり、その混乱を悪用した捏造(ねつぞう)がまた起こった。世界では数え切れないほどのネットユーザーがコメントを書き込んでいるが、韓国のようにこれほど大問題になるような国が他にあるだろうか。韓国社会では「自分はどういう人間か」よりも「自分は他人にどう見られているか」の方に誰もが敏感に反応するという。そのためネットでも自分の考えよりも他人の考えにはるかに神経質になるようだ。これが書き込み騒動の根底に横たわる社会心理的要因ではないだろうか。

ホーム TOP