米国のワシントンには「ローロデックス政治」という言葉がある。ローロデックスとは回転式名刺ホルダーの商標だが、この言葉はいつしか米国の大統領がそのホルダーの中にある上下院の議員らに直接電話をかけ、自らの政策について説明する食事の場を設けることを意味するようになった。その代表がオバマ前大統領だ。2回目の任期1年目に予算問題で政府と議会が激しく対立した際、野党の上院議員24人をホワイトハウスに招いて夕食を振る舞った。オバマ大統領を常に激しく批判していた共和党のライアン議員を朝食に招待したこともある。その後は3日連続で議会を訪れ、民主党・共和党に関係なく議員らと積極的に対話を交わした。その後もこの食事と電話はオバマ大統領のレームダック化を防ぐ秘訣(ひけつ)になったと言われている。

 故・金泳三(キム・ヨンサム)元大統領は就任直後、昼食にカルククス(韓国式のうどん)を準備し自らの政策に批判的な人物を招いて直接話を聞いた。当時の大統領府関係者は「大統領が食事をしながら直接政策を説明し理解を求めれば、批判は自然に弱まった」と当時を回想する。しかし家族や親戚の不正が明らかになると、金泳三元大統領による食事の招待も回数が減った。故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は三食いつでも突然誰かを呼び出すことがよくあったという。盧武鉉政権で最初の政務主席を務めた柳寅泰(ユ・インテ)国会事務総長は「私と文喜相(ムン・ヒサン)秘書室長(当時)、文在寅(ムン・ジェイン)民政主席(いずれも当時)夫妻が最もよく呼ばれたが、それはもはや人権侵害とも言えるレベルだった」と当時を振り返る。

 このように「人権侵害」を受けた文喜相国会議長が先月末、文大統領に対し「食事はいつも一人ですか」と直接尋ねたという。大統領府は文大統領のいわゆる「ぼっち飯」を否定し「非公開の昼食会や夕食会が非常に多い」と説明した。しかし大統領のぼっち飯のうわさはもはや国会議長の知るところにまでなっている。「大統領のぼっち飯は危険なシグナル」と懸念する声も多い。大統領が周囲の意見を幅広く聞く機会は最終的に国家と国民の財産になるからだ。

 保守系野党・自由韓国党の汝矣島研究院は昨日、文大統領就任から600日の間に公表されたスケジュールを全て分析した結果を公表した。それによると大統領主催の食事会は1800回の食事のうち100回だった。これは誰かを食事に招待するペースが6日に1回だったことになる。残りの食事を誰としていたかは明らかになっていない。また2144回の全スケジュールのうち、議員などとの面会は4%に当たる86件しかなく、うち野党議員は26件しかなかった。つまり文大統領は野党を説得する努力をほとんどしてこなかったということだ。

 文大統領就任1年目は野党各党の代表4人と会うと「疎通大統領」として国民は大きな期待を寄せた。ところが「ぼっち飯」や自分たちの仲間としか食事をしないようでは「国民全体の大統領になる」という就任式の言葉とは全く逆だ。今年に入って文大統領が与党関係者とよく食事をするようになったのは幸いだが、反対する野党関係者とも一緒に食事する機会が増えることも同時に期待したい。

アン・ヨンヒョン論説委員

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