2002年、新年を迎えた金正日(キム・ジョンイル)総書記は不安だった。01年の9・11テロに直面した米国は、北朝鮮・イラン・イラクを「悪の枢軸」と呼び、先制攻撃の可能性をちらつかせたからだ。00年の南北首脳会談、01年の江沢民国家主席訪朝などでつくり上げられた有利な情勢は瞬く間に覆った。金正日総書記は02年8月にウラジオストクに向かい、ロシアのプーチン大統領と会った。続いて9月には日本の小泉首相を平壌に呼んだ。日本の支援を得ようと、「北が日本人を拉致した」と告白まで行った。米国の圧迫に対応しようとしたら、韓国の「太陽」、中国の「血盟」だけでは足りないと考えた。安全保障の危機の際に味方の幅を広げるのは、外交の常識だ。

 金正恩(キム・ジョンウン)委員長が4月24日ごろウラジオストクでプーチン大統領と会う、という報道が出回っているのは、この常識に基づくものだ。3月に安倍首相が日本人拉致問題解決のため「日朝首脳会談を実現させたい」と発言したのも聞き流せない。ハノイ第2次米朝首脳会談が決裂した後、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と習近平国家主席だけを信じてトランプ大統領を相手にするのでは落ちぶれかねない、という懸念を抱いたことだろう。02年に金正日総書記がそうしたように、ロシア・日本との接触面を広げようとする可能性は高い。米中日ロの4強外交が重要だというのは、韓国も北朝鮮も同様だ。

 日本を嫌っている点では、中国も韓国に劣らない。1930-40年代の日中戦争で殺されたり傷ついたりした中国人は2000万人に上る。南京大虐殺では30万人が犠牲になった。習近平主席は14年、日中戦争の引き金となった「盧溝橋事件」77周年に合わせ、日帝を「日寇」と呼んだ。寇とは外敵、盗賊を意味する。対日「歴史戦争」で味方を確保しようと、韓国にもボールを投げた。同年の訪韓時には「壬辰(じんしん)倭乱(文禄・慶長の役)で両国は共に戦った」と発言した。当時、中・日関係は回復困難に見えた。そんな両国が、今では「友好」を誇っている。中国は01年のBSE(牛海綿状脳症)発生に伴って禁止していた日本産牛肉の輸入を再開すると決定し、日本は4月25日から北京で始まる「一帯一路」(新シルクロード)フォーラムに出席すると決めた。日本の外務省は「日中関係が正常化した」ともコメントした。トランプ大統領が荒らして回る国際情勢の中で国益を守ろうと、古い感情は後ろに追いやったのだ。これも常識だ。

 韓国の現政権の外交は、こうした常識を破壊している。最大の味方である米国との同盟から揺らいでいる。文在寅大統領が「韓米は朝米対話の早期再開のため共に努力することとした」と表明した翌日、トランプ大統領は「(米朝対話を)急ぎたくはない。急ぐ必要はない」と発言した。文大統領が要請していた開城工業団地と金剛山観光再開は面前で拒否された。民主主義と市場の価値を共有する日本との関係は史上最悪だ。光復(日本の植民地支配からの解放)以来70年以上たったのに、現政権はまだ抗日運動中だ。中国に対しては、THAAD(高高度防衛ミサイル)問題で「THAADを追加配備せず」「米国のミサイル防衛(MD)に参加せず」「米韓日の3カ国軍事同盟化を行わず」という、いわゆる「三不」を約して主権まで譲歩したが、露骨に無視された。国賓待遇で訪中した文大統領は「一人飯」する羽目になり、大統領特使は2度も下座に着いて習近平主席と会った。北朝鮮の核はそのままなのに、味方の拡大はおろか、今いる味方とも疎遠になっている。金正恩委員長が、北ばかり眺めて孤立する韓国を恐れるはずがない。4月12日の施政演説で文大統領に向けて「出しゃばりの促進者、仲裁者のふりをやめろ」と言ったのは、なんとなく出てきた発言ではない。

 文大統領は2年前、大統領選を控えて、ソーシャルメディアに「金正恩が最も恐れる大統領になります。米国が最も信頼する大統領になります。中国が最も信じるに値する大統領になります」と書き込んだ。今はどうか。

アン・ヨンヒョン論説委員

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