「テントの2面は開けてください」―取り締まり係の指示もものともせず

午後7時の撤収規定も守られず、闇の中で明かりをともすテントは数十カ所

 4月28日午後4時30分、家族連れやカップル、友人などでにぎわうソウル市永登浦区汝矣島漢江公園を訪れた。特に夏のキャンピング場と季節広場の2カ所(4万5000平方メートル)には、約1000個のテントが立ち並び、足の踏み所がないくらいだった。テントは四つの面のうち二つ以上の面を必ず開けておかなければならない。しかし、この日も原則を守らないテントが約30%に上った。取り締まりに乗り出した漢江事業本部の関係者は「3、4人で市民たちを説得して回っているが、数百個のテントに開放を要求するには限界がある」という。

 ソウル市が漢江公園のテントの取り締まりを強化して以来2週間がたとうとしているが、依然として規定を守らない市民が多いことが分かった。ソウル市は4月22日から「一部の市民が密室テントで恥ずかしい愛情行為を交わしているといった苦情が多く寄せられている」との理由から、取り締まりを強化した。テントの大きさは縦、横2メートル以内で、必ず2面以上を開放しなければならない。これまでは午後9時までにテントを畳めば問題はなかったが、今ではその時間も午後7時へと2時間繰り上げられた。許可された空間以外の場所にテントを設置した場合、摘発されると1回に付き100万ウォン(約9万5000円)の反則金が科せられる。最大で300万ウォン(約28万円)まで科せられる恐れもある。一部では数百万ウォン(数十万円)に上る反則金が逆効果を生んでいるとの指摘もある。取り締まり係の立場からしても、反則金を賦課するのが負担な上、市民たちも「まさか数百万ウォンに上る取り締まりを行うわけがない」と高をくくっているのだ。ある取り締まり係は「反則金を科したケースは一度もなく、ほとんどが警告で終わる」という。

 このように反則金が非現実的な水準であるため、実際に市の取り締まりを気にせず、テント愛好家たちが公的な空間である漢江公園をまるで私的な空間であるかのように占領している。インターネットには「午後7時30分以降は取り締まり係がいなくなるため、これに合わせてまたテントを設置すればいい」など、別名「必勝法」を集めたブログも登場している。テントを畳まなければならない時間から30分がたった同日午後7時30分、瑞草区の盤浦漢江公園には約150個のテントが依然として設置されていた。辺りが暗くなると、4面を全て閉じた密室テントがむしろ増えた。ここから約900メートル離れているセビッソム近くのテント許可区域には、約20個のテントに明かりがともっていた。同日漢江公園を訪れたオ・スンイルさん(39)は「漢江の景観を楽しみたい市民の権利も尊重しなければならないのではないか」と眉間にしわを寄せた。フランスからやって来たエミール・ニコライさん(29)は「テントがあまりにも多いので、漢江に難民キャンプができたのかと思った」と驚きの表情を隠せなかった。

 海外では都心の公園でのテント設置を許可していないケースが多い。フランスのパリ市は、都心の公園とセーヌ川のほとりでテントを張る行為を厳しく禁じている。公共資源である芝生に悪影響を及ぼすとの理由からだ。パリの都心では、16区にある指定されたキャンピング専用区域でのみテントを張ることができる。英国ロンドンのロイヤルパークや米国ニューヨークのセントラルパークなど海外を代表する公園も、特別な行事を除けばテントの設置を認めていない。

 漢江公園内のテント設置も、もともとは違法だった。しかし、2013年4月、「漢江の川辺には直射日光を避ける場所が足りない」との苦情が多数寄せられたことで、「日陰用テント」の設置を許可した。市が市民のために規定まで変更したわけだが、市民意識がこれに追い付いていないのだ。

 これについて、専門家たちは、市民たちが公的な空間を私的な空間と認識することで発生した葛藤だと指摘する。建国大学警察学科のイ・ウンヒョク教授は「厳密に言えば公的な空間である漢江公園にテントを張るということは、空間を私有化するのと同じ」としながら「市で取り締まりに乗り出すなど無駄な労力を浪費しなくてもいいように、成熟した市民意識が伴うべきだ」と説明する。市の関係者は「しっかりとマナーを守る90%の市民が、守らない10%の市民のために被害を被ることがないように、今後とも取り締まりを続けていく」と話した。

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