先日、韓国国会で行われたドラマチックな場面を見て、数年前ソウルのある外国人学校で目にした光景を思い出した。最も鮮明に思い出されたのが、2年生の教室の壁に児童たちが描いた絵やポスターと共に掲示された教師による文句だった。「自分の手足は自分の空間に(Keep your hands and feet to yourself)」

 この文句は私に深い印象を残した。小学生たち、特に男の子たちはじっとしていることができないため、自分をコントロールすることで他人の体を尊重するよう訓練する必要性がある。子どもたちがこれを学ぶことができなければ、他人にひどい接し方をしても道徳的に問題ないと錯覚するようになる。こうした思いは幼くて純粋な心に吸収されやすい。

 われわれがよく理解しているように、こうした重要な教訓は韓国社会にとってまだ目新しい。30歳以上の韓国人たちは、こうした教訓を体験し習うにはすでに手遅れなのかもしれない。

 私よりも読者たちの方がより深く理解していると思うが、これまで私が韓国で暮らしながら家族や友人から聞いた話を総合すると、わずか数年前までも、韓国社会は家庭内暴力、校内暴力、教師による体罰、警察による暴力を日常茶飯事として受け入れていた。軍隊はもちろんのこと、時には職場で拳を振りかざすことも当たり前のように考えられてきた。

 若い世代は理解し難いかもしれないが、親の世代と祖父母の世代はこうした不適切な虐待のため、想像できないほどのストレスを耐え忍ばなければならなかった。

 軍隊では体系的に兵士を殴った。殴られることも訓練の一部だと考えられていたためだ。その当時、韓国の母親たちは、徴兵拒否運動を展開したり国防部に押し掛けて上層部の人間に抗議したりしなかった。私にはこれが疑問に思えてならない。

 これまで軍隊や警察、情報当局のような政府機関が国民に振るってきた暴力こそが、中壮年層以上の韓国人たちの民族主義的だが愛国的でない理由について物語っている。彼らは韓国に勝ってほしいと願いながらもなぜ韓国を愛さないのか、英語さえできるなら海外に移住したいとなぜ思うのかだ。多くの人々が、国が自分を愛しておらず、尊重もしていないという経験をした。

 だから、韓国社会で育った中壮年の政治家たちは、ハンマーで国会議事堂のドアを壊し、反対する党ともみ合いになることが悪いことだと思っていない恐れがある。彼らは、かえってハンマーを振りかざし、反対する党ともみ合いになることが有権者たちの目に素晴らしく映るものと思っているのかもしれない。自分の激しい行動が自分の情熱的な真の姿を表現するし、国民もこれを認めてくれるはずだと思うのかもしれない。

 政治は政策ではなく、感情と関係が深いという単純な政治力学が、ここから生まれる。民主主義と法治を担当する機関が民主社会の柱なら、その中心には有権者一人一人の感情がある。有権者が持つ思い、有権者が受けた印象、有権者が感じる需要と良しあしの感情が混じり合って票を決める。票こそが民主主義の神秘であり神聖な場所なのだ。この聖所に入って票を得るのが政治家の目標だ。2012年の大統領選挙の際に行われたネット上での世論操作や、昨年明るみに出たドルイドキングことキム・ドンウォン被告による世論操作事件が深刻な犯罪と言われる理由が、ここにある。民主社会では、こうした行いは反逆なのだ。

 政治家の熱情は有権者の感情に訴え掛ける。自分が支持する政党の闘士たちが反対する党の悪党たちを阻もうとドアに押し付けられている様子を見て、有権者たちは自分の地方区の議員が人文学教授のように一歩離れた場所で傍観するよりは、かえって自由のために闘う戦列の先頭にいてくれることを望むこともあるだろう。

 しかし、私は欧州人として感情は必ず理性の統制を受けなければならないと信じて育ってきた。私はカッとする政治家、物を投げて怒鳴る政治家を信頼することができない。私の目には、こうした行動は品位を投げ捨てる行動のほかの何物でもない。私が育んできた欧州人の脳は、こうした人々は指導者になってはいけないと叫んでいる。私の祖父と父、そしてこの方々の全ての友人は、理性が政治を治めることができなかったために生じた2度の世界大戦で争った人々だ。

 興味深いのは、韓国の若者たちにはこの二つの態度が入り混じっているという点だ。彼らは高等教育を受けた親の下で育った世代だ。もう教師が生徒を殴らない学校で学んだ世代、以前よりは改善された軍隊と職場を経験した世代だ。彼らの祖国が今では個人を尊重する民主主義国家になったために可能となったのだ。韓国の若い世代は、他人がハンマーを振り回したがる理由をよく理解しているが、それと同時にそうした行為は尊重できるものではないということも、よくわきまえている。彼らは「理性的な言葉や常識で他人を説得することができない人は、初めから政治家になるべきではない」と考えるだろう。

元ソウル外信記者クラブ会長マイケル・ブリーン=『韓国、韓国人』著者

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