韓国政府が中国に「高高度防衛ミサイル(THAAD)による3不」を約束した後、韓国軍は一度もこれに反する意見を出したことがない。米国のミサイル防衛(MD)システムへの不参加について、韓国国防部(省に相当)は「米MDに編入され得ないということが韓国軍の立場」というメッセージを固守している。THAADは、追加配備を論ずる以前に、韓国国内に持ち込まれている星州のTHAADすらまだ臨時配備の状態だ。韓米日軍事同盟の不推進は、日本との対立、米国との防衛費分担金増額要求問題で自然と守られている。

 その間に中国は、韓国を脅かす軍事力増強に没頭した。中国は最近、建国70周年軍事パレードで東風17(DF17)極超音速弾道ミサイルを公開したが、これは在韓米軍を狙ったものだと露骨に明らかにした。DF17はマッハ8-10前後のスピードで飛行し、THAADでも防ぐのは難しいといわれている。レーダーで探知されても飛行コースを変える滑降が可能なので、迎撃対応も難しい。

 今年7月にはロシア版THAADと呼ばれるS400防空ミサイルシステムを、契約より数カ月前倒しで配備した。中国は既に昨年7月、ロシアからS400の1次引き渡し分を受領しており、今回は2次配備になる。S400防空ミサイルは2007年からロシア軍に実戦配備されている中長距離地対空ミサイルシステムで、低高度を飛行する巡航ミサイルや戦術弾道ミサイル、軍用機などをいずれも迎撃できる。このS400は、F35ステルス戦闘機を探知・迎撃できるともいわれている。

 韓米日三角安保協力体制が揺らぐ間に、朝中ロは軍事的蜜月関係へ突入した。北朝鮮は新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、イスカンデル級弾道ミサイル、新型放射砲(多連装ロケット砲)など、韓国軍のミサイル防衛システムを無力化できる新たな戦力を誇示している。

 こうした状況でも、韓国政府に対する中国の「ダブルスタンダードな威圧」は続いている。中国は、2019年国防白書を通して「米国は韓国にTHAADを配備したことで地域の戦略バランスを深刻に破壊してしまい、地域国の戦略および安全の利益を大きく傷つけた」と主張した。

 最近5年ぶりに再開された韓中高位軍人級対話では、中国の魏鳳和・国防相が韓国の朴宰民(パク・チェミン)国防次官に「双方の核心にある関心を尊重し、関連するデリケートな問題を適切に処理する流れの上で、両国軍の関係発展と地域安全守護を推進することを望む」と発言した。魏国防相はこれに先立ち、朴次官が出席した北京香山論壇の開幕演説で、韓米を意識して「一部の国が排他的安保戦略を駆使してミサイルを配備するのは、地域安保に対する不確実性を大きくするだけ」と主張した。

 韓国政府は、露骨に韓米同盟を揺さぶる中国の態度を傍観している。米国では、そんな韓国に対する不満が積み重なっているという。米国は今年4月、平沢基地(キャンプ・ハンフリーズ)でTHAADの展開訓練を行ったが、これに関して韓国軍内外からは「米国がTHAADの追加配備を望んでいるのではないか」という声が上がった。米国の専門家らは最近相次いで、韓国がMDに参加すべきだという主張を提起している。

 韓国軍内外では、「韓国だけが損をする」3不の立場を廃棄すべきだという声が力を得ている。シン・ウォンシク元合同参謀本部次長は「3不の立場を維持するのは軍事主権放棄レベルのもので、廃棄すべき」だとして「中国の脅威だけでなく、韓国がまさに当面している北朝鮮の核やミサイルにも無防備な状態に置かれている」と語った。朴元坤(パク・ウォンゴン)韓東大学教授は「戦時作戦統制権を(韓国軍に)移管したら偵察・監視能力が不足することを韓国政府ははっきり理解しているので、MDと連携しないわけにはいかない」としつつ「こういう形で少しでもMDと連携したら、また中国に文句をつける口実を与えてしまう」と語った。

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