韓国政府は7日に北朝鮮住民二人を北朝鮮に強制送還したが、この問題で国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)とトマス・オヘア・キンタナ国連北朝鮮人権状況特別報告者の対応は素早かった。これは問題の北送決定が自由民主主義の人権国家で起こってはならない「国際法の完全違反」に該当するからだ。来年から3年間、国連人権理事会の理事国となる予定の大韓民国に「人権じゅうりん加害国」という国際的な批判も相次ぐ見通しだ。

 OHCHRは14日、本紙に北朝鮮住民二人の送還に対する懸念を伝えた上で「大韓民国は『拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取り扱いまたは刑罰に関する条約(拷問等禁止条約)』と『市民的および政治的権利に関する国際規約(B規約)』のいずれも当事国だ」と指摘した。これらの条約に加盟している韓国政府がその義務を無視したことを遠回しに批判したのだ。

 1995年に発効した拷問等禁止条約第3条第1項には「締約国は、いずれの者をも、その者に対する拷問が行われる恐れがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国へ追放し、送還しまたは引き渡してはならない」と定めている。また90年に発効したB規約も第14条に「刑事上の罪に問われている全ての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を有する」と明記されている。韓国政府は「殺人など重大な非政治的犯罪者」を「追放」したと主張しているが、国際法によれば彼らは韓国国内で司法手続きを行うべきだった。

 北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)のマイケル・カービー元委員長はこの日、米政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)に出演し「(北送は)条約や法的専門性なしに行われたため、保護措置も行われなかった」と指摘した。その上でカービー氏は「北朝鮮住民二人が犯罪者だったという話は、他人をだますことで悪名高い国(北朝鮮)の主張にすぎない」「韓国に到着した北朝鮮住民は韓国国民となる憲法上の権利がある」などとも主張した。

 国連恣意(しい)的拘禁作業部会のホン・ソンピル委員も本紙の取材に「これまでアジアでは珍しい人権主義国家として認められてきた韓国の規範的な位置を揺るがす大事件だ」「一般の難民も難民審査を受けるが、韓国国民と考えられる北朝鮮住民を、迫害を受ける場所に直接引き渡したのはあり得ない決定だ」などと主張した。ホン委員はさらに「今回の送還決定は拷問等禁止条約や強制送還禁止原則という国際法に完全に違反した」「これまで中国に対して『脱北者を北送するな』と主張してきた二つの根拠を韓国政府がどちらも無視した」などとも指摘した。これらの批判に対して韓国外交部(省に相当)のキム・インチョル報道官は「南北関係、そして北朝鮮と各国との関係を水平的に比較することはできない」と反論した。

 国際人権NGO(非政府組織)のアムネスティ韓国支部は14日に発表した声明で「強制送還禁止原則は彼らが犯罪者かどうかに関係なく、全てのケースに適用される」「犯罪行為が確認される前に犯罪者と決め付け、北朝鮮に送還するのは公正な裁判を受ける権利を否定したものだ」として韓国政府の対応を批判した。アムネスティはさらに「もし二人が韓国に入国する前に犯罪を犯していたのであれば、韓国の法律に定められた行政的・刑事的手続きに沿って捜査を行い、国際的な人権の基準に合わせて判断を下せばよい」「二人は韓国で起訴されることも考えられた」などと主張した。

 大韓弁護士協会もこの日「反人権的な北朝鮮住民の強制北送について深刻な懸念を表明する」との声明を発表した。弁護士協会は「北朝鮮住民も大韓民国国民として基本的な人権が保障されており、政治的な論理や政策的な考慮によって人権問題がずさんに扱われるとか侵害されてはならない」「大韓民国国民であれば弁護人の助けを受ける憲法上の権利があるにもかかわらず、彼らはこれを全く保障されなかった」などと指摘した。北朝鮮人権団体「忘れな草」もこの日、韓国政府が北送した北朝鮮住民二人について「生命権を保障してほしい」という嘆願書を国連人権理事会の強制的・非自発的失踪に関する作業部会に送付したことを明らかにした。

 一方で国連安全保障理事会常任理事国の米国、英国、フランスと対北朝鮮制裁委員会議長国のドイツは世界人権宣言デーとなる来月10日、「北朝鮮人権特別委員会」の開催を模索しているという。ブルームバーグ通信が報じた。来月安保理議長国となる米国が中心となってこの委員会が開催された場合、韓国政府による強制北送への批判が相次ぐ可能性が高い。

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