▲韓賢祐(ハン・ヒョンウ)論説委員

10代半ばから練習ばかりでスポットライト・喝采浴びステージに立つも

非難浴びればパニック…社会が彼らを死に追いやる

 お笑いタレント4人が人気料理店を訪れてものすごい量の料理を食べるテレビ番組がある。まさに「フード・ポルノ」とはこのことだろう。4人で豚カルビ肉24人前を食べたり、トッポッキ(もちのトウガラシみそいため)が1人前2000ウォン(約190円)という店で軽食ばかり5万6500ウォン(約5200円)分を食べたりする。彼らはたくさん食べるが、じつにおいしそうにも食べる。あらゆるグルメ番組の洪水の中で生き残る秘訣(ひけつ)だろう。

 だが、彼らにも嫌いな食べ物があるから、泣く泣く食べている姿もときどき見かける。何でもよく食べる人と組まされていて、避けられないようだ。この番組を見ながら、いつか「食べられないものを食べる人たち」のような番組も登場するのではと思った。

 視聴者たちはお笑いタレントたちの撮影後の姿を知らない。たとえ腹痛を訴えて病院の救急室に搬送されたとしても、その姿がバレてはならないのが芸能人だ。しかし、一般の人々は彼らのカメラに写っていない時の姿も知りたがる。その職業的な宿命をどのようにうまく扱うかが芸能人という職業を続ける最大のカギかもしれない。どんな職業よりも哲学的な悩みが避けられないのが芸能人だ。

 韓国のアイドルはたいてい20歳前後でデビューするが、ほとんどが中高生のころから学業そっちのけで練習生として訓練される。毎日練習室に出てきて基礎体力・振り付け・歌などの時間割に基づいて夜遅くまで週6日間練習する。こうした過程を経て、2-3年後にデビューできれば運がいい方だ。計画通りにデビューできなければ、それだけ時間や費用がさらにかかる。デビューするのに6-7年がかかり、コストが1グループ当たり10億ウォン(約9300万円)かかるケースもある。

 このように苦労してデビューしたとしても、1年以内に「秀」か「不可」かどちらかしかない成績表をもらう。その成績は練習をもっとしたからと言って上がることはない。通常、ほかのグループのメンバーとして再デビューし、あらためて成績表を受け取る方法を選択することになる。こうした過程を2回ぐらいしてもスターになれなかった時、20代前半のアイドル志望者が抱える挫折感はとてつもないものとなる。

 デビューに成功して人気を得たアイドルには「芸能人ストレス」が待っている。まず、いろいろなテレビ番組に呼ばれて出なければならないが、これが並大抵の悩みの種ではない。習ったのはダンスや歌だけなのに、トークで笑わせたり珍しい芸を見せたりしなければならない。そのような番組に出て顔が売れないと、出演料の高いイベントやCM出演のオファーが来ない。視聴率の低い番組でもデビューさせてくれたテレビ局の顔色を見なければならないので断ることもできない。そんなテレビに出てもトークのネタがないから、練習生時代のエピソードや毎日一緒にいるマネージャーの話をするしかない。

 ダンス・歌・トーク番組まで何とかクリアすれば、「マルチタレント」という称号が得られる。これくらいになると、自身をデビューさせてくれた芸能事務所との契約が満了する時期が来る。このころには好きな人もできるし、前の所属事務所が厳しく禁止していたプライベートについても欲が強くなる。そんなこんなで大小のスキャンダルが降ってわく。やってしまったことに対して耐えられないほどの非難や冷笑、悪意のあるデマがインターネット上に広まる。10代半ばから芸能事務所に所属して練習だけしてきて、ある日、スポットライトや拍手喝采(かっさい)を浴びてステージに立つようになった彼らの人生は突然、激しく揺れる。「どうやって生きていけばいいのか」を教えてくれる大人には1人も会えないまま、スマートフォンを手に夜を明かす。

 才能(タレント)を商品としてだけ考えて人格教育に一銭も投資しない芸能事務所、彼らの商品性を視聴率という道具としてだけ使うテレビ局、そうした商品を何の批判もなく消費する視聴者は固く結ばれて輪になっている。この輪を何とか変えなければ、芸能人という過酷な職業に耐えきれず、最悪の選択をするケースが後を断たないだろう。

韓賢祐(ハン・ヒョンウ)論説委員

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