なぜ事前投票不正説が浮上したのか…

元韓国統計学会会長・ソウル大統計学科名誉教授朴聖ヒョン氏インタビュー(上)

 4月15日の投開票された韓国総選挙を巡り、事前投票(期日前投票)の不正説が浮上した際、真面目に取り合う事柄ではないと判断した。政界では一部の保守派も批判的な態度だった。保守派にしてみれば、選挙での敗北のみならず、「選挙に不服を唱えた」という汚名も着せられかねない。過去の選挙でも負けた側が「陰謀論」を唱えたが、すぐに荒唐無稽な主張だと判明したものだ。 

 しかし、韓国統計学会会長、韓国科学技術翰林院院長を歴任した朴聖ヒョン(パク・ソンヒョン)ソウル大統計学科名誉教授(75)はこう切り出した。

 「事前投票を巡り諸説があるため、全国253の選挙区のデータを詳細に見た。統計的観点では確実に起こりにくい投票結果だった。どんな形であれ人為的介入があった可能性を排除することは難しいと思う」

 以下は朴名誉教授との一問一答。

-これは非常にデリケートな事案だ。統計学者としてこれまで積み上げてきた教授自身の権威や名声を失いかねない。

 「不正の証拠だとは断言できなくとも、統計学者の目にはとても疑わしく映る。非常に偶然にそんなことが起きたと主張することはできるが、統計的にはそんな偶然が起きることは容易ではない。あえて言うならば、『神があらかじめそうしようと決めていなければ起こり得ない』ものだった」

-統計的に納得できなくても、現実では起こり得る。現実が統計理論に従うわけではない。今回の総選挙の投票結果が実際にそれを物語っているのではないか。

 「現実を反映してきた結果が統計だ。例えばソウルは江南、江北(漢江の南側と北側)で地域特性があり、候補の競争力が異なり、支持率の優劣がまちまちになるのが正常だ。今回はソウルの49選挙区で全て民主党の事前投票での得票率が投票日当日の得票率を12ポイント上回った。選挙区別の標準偏差も2.4%で、ほぼ同じパターンを示した」

-新型コロナウイルスに対応するため、政府・与党を支持すべきだという追い風が吹いたとすれば、こういう結果が出ることもあり得るのではないか。

 「さらに細かく、ソウルに424ある洞の単位でも1カ所の例外もなく、民主党の事前投票での得票率が当日の得票率を上回った。洞ごとに(支持に)特色があるにもかかわらず、一律的な結果が出た。統計的には到底発生しないことだ」

-黒雲が韓半島を覆えば、全国的に雨が同時に降る確率は100%だと主張する学者もいる。黒雲とは「民心」の比喩なのだが。

 「そう主張することは可能だ。しかし、選挙当日の投票では民主党45.6%、統合党46.0%だった。当日の結果に従えば、民主党が123議席、統合党が124議席、無所属が5議席、正義党が1議席を得る。そんな『民心』が事前投票箱を開くと、民主党163議席、統合党84議席に変わった。事前投票で現政権を支持する民心が黒雲のように覆ったと仮定しよう。それならば、4-5日後の選挙当日の投票ではなぜ突然民心が変わったのか。説明がつかない」

-保守傾向の有権者の間では、「投票箱のすり替えや不正が可能なので、事前投票をしてはならない」という言葉が広がった。例えば、大邱市では事前投票の割合が最も低く、当日投票の割合が高かった。歴代の選挙でも現政権を支持する若い層の多くが事前投票に加わったがどうか。

 「今回事前投票した人の内訳は60代以上が30.8%で最多。次に50代が21.9%だった。50代以上を合計すれば52.7%となり、若い層よりも事前投票した人が多かった。50代以上の全般的な支持傾向が変わったとは言えないのではないか」

-こういう解釈は可能だ。50代以上は現実的に経済問題に最も敏感だ。事前投票を行った50代以上は文在寅(ムン・ジェイン)政権の災難克服を支持した有権者だと推定できるのではないか。

 「だからと言って、50代以上の層で政府・与党を支持する人ばかりが事前投票したとは言えない。むしろ自分の周囲では文在寅政権に審判を下す意思を示すため、事前投票を行ったとする人が多かった。事前投票から4-5日後に支持傾向がなぜこのように変わったのか説明できない」

-先生(朴教授)が学んだ統計理論に合わないとしても、既に起きた現実を否定しようとしているように映る。過去の選挙でも事前投票の得票率は民主党が高かったのではないか。

 「2016年総選挙で民主党の事前得票における得票率は高かったが、低かった選挙区も随分あった。反対に統合党(当時のセヌリ党)候補が事前投票でリードした選挙区もあった。当時両党の事前得票での得票率差は5ポイントだった。しかし、今回は約22ポイントの差がついた。統計的にはこうなるはずはない」

-事前得票を行う層と選挙当日に投票する層が同じ傾向を示すという前提が誤っているのではないか。

 「有権者全体を母集団としたとき、事前投票グループと当日投票グループは無作為に分かれるものだ。ところが、民主党の事前投票での得票率は当日投票よりも平均で10.7ポイント高かった。一方、統合党は当日投票よりも11.1ポイント低かった。重ねて言うが、4-5日間の間隔で投票傾向が10ポイント以上異なるはずはない」

=(下)に続く=

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