中国・寧波市の北朝鮮レストラン「柳京食堂」から2016年4月に集団脱北した北朝鮮女性従業員12人が人権侵害に遭っているとして、「民主社会のための弁護士会」(民弁)が国連人権委員会に行った陳情を巡り、同委員会が却下を決定した。今月18日(現地時間)に公開された決定書で国連人権委は、脱北従業員らが韓国で「活動の制約がない平凡な市民」として暮らしている一方、民弁は従業員やその両親の明白な委任を受けていないことから、陳情を採択はできないと表明した。「被害当事者」に挙げられた脱北従業員が問題提起なく韓国で暮らしているのに、民弁が乗り出して人権侵害を主張することはできない、という意味だ。

 脱北従業員を代理できない民弁のこの事件に対する関心も注目を集めている。女性従業員らと共に脱北した男性支配人ホ・ガンイル氏は20日、本紙の取材に対し、韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)と民弁の関係者らが2018年に自分と脱北従業員の一部を慰安婦被害者の休養施設に招き、「北に戻ることを勧めた」と明かした。

 北朝鮮は脱北直後から「国家情報院(国情院。韓国の情報機関)が捏造(ねつぞう)した前代未聞の集団的誘引拉致」だとして「全員を即刻送り返すべき」と主張していた。北朝鮮は、女性従業員らの両親名義で国連に送還要請の書簡も送った。すると、韓国の裁判所で「利敵団体」とされた「南北共同宣言実践連帯」の後身である「民権連帯」などが問題を提起した。民弁も、この事件を「企画脱北」と見なし、脱北従業員らとの接見を申請した。

 脱北従業員らが希望しなかったため接見が拒絶されると、民弁は「北朝鮮家族の委任があれば、従業員らの釈放を要求できる」と主張した。米国籍を持ち、中国で活動していた鄭己烈(チャン・ギヨル)清華大学招聘(しょうへい)教授が平壌を訪れ、従業員の家族が作成したという委任状や委任契約書などを受け取って民弁に送った。これを基に民弁は、ソウル中央地裁に「人身保護救済審査」を請求した。裁判所は、民弁に訴訟を依頼した人々が本当に北朝鮮従業員の父母なのか確認できないとして却下した。すると2017年に民弁は国連人権委員会と、同じく国連所属の人権機関である「恣意(しい)的拘禁作業部会」にも陳情を行った。韓国政府が脱北従業員らを拘束し、家族が選任した法的代理人である民弁の接見を拒否している、という内容だった。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足すると民弁は、国家情報院が脱北を企画して「従業員と家族の人権を踏みにじる犯罪」に及んだとして、朴槿恵(パク・クンへ)前大統領、イ・ビョンギ前大統領府秘書室長、李炳浩(イ・ビョンホ)前国情院長などを検察に告発した。統一部(省に相当)は「従業員らは自由意志に基づいて入国した」という見解を表明したが、民弁は納得しなかった。国家人権委にも陳情を行ったが、人権委は昨年9月、「国家機関の不当な介入を確認できない」として棄却した。

 支配人のホ氏が初めて民弁所属の弁護士と会ったと主張している時期は、朴・前大統領などを告発した直後の2018年6月だ。この弁護士は、挺対協の代表を務めた尹美香(ユン・ミヒャン)「共に民主党」当選人夫妻をホ氏に紹介し、挺対協が出しているものだとして後援金も送ってきたという。弁護士らが北に戻るよう勧めたというホ氏の暴露に対して民弁は、21日の時点では公式見解を出さなかった。ただし問題の弁護士は、「越北勧誘」疑惑に関連し、21日にメディアを通して「原状回復や(脱北者が望む場合)北朝鮮送還の話は(民弁が)普通にやっているもので、それをどうして越北勧誘と見なせるのか」と主張した。またこの弁護士は「安城の慰安婦休養施設に従業員らが招待されたのは間違いないが、そのときに私はいなかった」として「当時、従業員らが心理的安静を取るという観点から、良心囚後援会や(慰安婦被害者の)吉元玉(キル・ウォンオク)おばあさんらと会ったと理解している」とも発言した。なお、21日の本紙の電話インタビューでは「民弁や私が適宜、近いうちに見解を発表する」と表明した後、関連質問には答えなかった。

金真明(キム・ジンミョン)記者

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