▲防犯カメラに映った朴元淳市長の最後の姿/写真=読者提供

 人口1000万を擁する韓国の首都、ソウルの市政を引っ張ってきた朴元淳(パク・ウォンスン)市長は、なぜ突然、極端な選択で命を絶ったのだろうか。朴市長が10日未明に北岳山のふもとで遺体で発見されるまさに前日の時点でも、家族やブレーンは、朴市長におかしな気配があるとは全く感じられなかったという。今回の事件は、今月8日午後3時30分ごろ、ある若い女性が弁護士と共にソウル市鍾路区内資洞のソウル地方警察庁1階民願室へやって来たことで始まった。ロビーで一行と会ったソウル警察庁の女性犯罪捜査チーム所属の女性捜査官らは、一行を庁舎外に用意された別の取調室へ案内した。

 若い女性は、朴市長の元秘書のAさんだった。Aさんは8日、朴市長をわいせつ行為の疑いで警察に告訴した。警察関係者も「朴市長がわいせつ容疑で訴えられたのは事実」と確認した。Aさんに対する警察の被告訴人調査は午前0時過ぎまで続いた。警察関係者は「Aさんが提出した告訴状に記された内容が事実かどうかを把握するための事情聴取だった」と語った。

 本紙の取材を総合すると、告訴状には、Aさんが「朴市長の秘書として働いている間、数年にわたって継続的にわいせつ行為やセクハラに遭った」とする内容が細かく記されていたといわれている。わいせつ行為の被害事例としてAさんが主張した内容の要旨は「朴市長はテレグラムなど携帯電話のメッセンジャーを使ってセクハラメッセージを繰り返し送ってきて、朴市長から望まない身体接触をされることがひんぱんにあった」というものだ。みだらなチャットを送ってきたということも告訴状の中に含まれていたという。また、朴市長が下着だけの姿の写真を送ってきて、同様の写真を撮って自分に送ってよこすよう要求したこともある、とAさんは警察の事情聴取で明かした。Aさんは、朴市長が送ってきた写真やチャットの内容を証拠として警察に提出したといわれている。朴市長に対するわいせつ容疑の告訴事件は、直ちにソウル警察庁生活安全部長を経由してソウル警察庁長にまで報告された。事案が重大だと判断したソウル警察庁長は、上級機関である警察庁本庁にこの事件を報告した。報告には、朴市長に対する告訴の内容が含まれていたという、本紙の取材によると、警察庁は青瓦台(韓国大統領府)国政状況室を通して事件に関する内容を報告したといわれている。正確な報告の時期はまだ確認されていない。しかしAさんに対する事情聴取が午前0時過ぎの深夜に終わったので、9日未明から午前中の早い時間帯に報告されたものと推定される。

 この後、朴市長の周辺で緊迫した状況が発生した。9日午後5時17分、朴市長の娘が「父が遺言のようなおかしなことを言って公邸を出て、電話がつながらない」と警察に通報した。当時、ソウル警察庁の捜査チームはAさんの告訴状や事情聴取の内容を基に、捜査の下絵を描いていたところだった。失踪の届出を受けた警察は、直ちに朴市長の行方を追った。9日午後4時ごろに朴市長の携帯電話の位置信号が切れた北岳ゴルフ練習場(ソウル市城北区)付近の北岳山の山麓を中心に、警察官や消防官およそ770人を動員し、捜索犬9頭まで投入して捜索に乗り出した。しかし朴市長は10日午前0時1分、北岳八角亭と三清閣の間の山中で亡くなっているのが発見された。

 朴市長の最後の一日は、普段と違っていた。通常は朝早く出勤する朴市長だが、9日は明け方に「体調が良くない」という理由で出勤せず、公邸にとどまっていたという。朴市長はこの日、昼食を首相公邸で丁世均(チョン・セギュン)首相と共にすることになっていた。だが朴市長は9日午前10時ごろ、丁首相に自ら電話をかけ、「とてもつらい。申し訳ない」とキャンセルしたと伝えられている。元秘書のAさんの告訴と朴市長の極端な選択との関連は、まだ確認されていない。しかし前日まで周辺で何らおかしな兆候を発見できなかった朴市長のこうした突然の変化を考慮すると、Aさんの告訴の内容が朴市長にも伝えられたものとみられる。警察の事情聴取を前後して、朴市長がAさんによる告訴の事実を知った可能性がある。朴市長は告訴内容に反論して立ち向かうという対応を選ばなかった。

 朴市長が極端な選択をしたことで、警察は「公訴権なし」を理由にこの事件に対するこれ以上の捜査を行わず、検察へ事件を移すこととした。

イ・ドンフィ記者

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