2017年、当時北朝鮮が「水素爆弾試験」の脅しをかけた翌日の9月23日、米国は戦略爆撃機B1B「ランサー」などを北方限界線の向こう側へ送り込み、北朝鮮側の公海上を飛行させた。このとき韓国政府は「米国はあまりに遠くへ行った」と不満を示したと伝えられている。いわゆる「ウォーターゲート事件」の特ダネ記者、ボブ・ウッドワード(ワシントン・ポスト紙副編集長)がトランプ大統領に18回のインタビューを行って執筆した新著『RAGE(怒り)』で、このような経緯が明かされた。

 15日(現地時間)出版予定の同書に、ウッドワードは「(2017年)9月25日、米国の司令部はB1B爆撃機やサイバー戦能力を備えた飛行機を含む20機の戦闘機を、南北を分かつ北方限界線の向こう側の海上へ送る模擬空襲を行った」とつづった。これは米国が、韓国時間で2017年9月23日夜、グアムを飛び立ったB1B「ランサー」爆撃機と沖縄から発進したF15C戦闘機などを北朝鮮側の東海上空の国際空域へ送り、飛行させた件を指しているものとみられる。ウッドワードは「軍用機は北朝鮮の領空や領土上に入る直前でとどまったが、極めて挑発的な作戦だった」とし「韓国の国家安全保障会議(NSC)は文在寅(ムン・ジェイン)大統領と会い『米国は北朝鮮とあまりにも遠ざかっているんじゃないか』という言葉を伝えてきた」と記した。

 2017年9月は、北朝鮮が6回目の核実験(3日)、中距離弾道ミサイル(IRBM)「火星12型」発射(15日)、「太平洋上での歴代最大級の水素弾試験」の脅し(22日)を続けざまに行い、緊張を最高潮に引き上げていた時期だ。米国がNLLの北まで威嚇飛行をしたのは、「水素爆弾試験」発言がなされた、まさにその翌日だった。だが当時、韓国政府は800万ドル(現在のレートで約8億5000万円)の対北人道支援を発表(14日)するなど、米国とは多少食い違いを見せていた。

 このため当時も、米国のNLL以北飛行に対し韓国政府は同意したのかという論争があった。文大統領は、米国の軍用機が飛行した翌日の9月24日、首相と閣僚まで集まるNSC全体会議を急きょ招集した。当時、これを巡っても「米国による東海上空の飛行は韓米間の協議を経て準備された対応ではなく、米軍側から事実上通知があっただけなのではないか」という見方があった。ウッドワードの記述が事実であれば、米国側の措置に対する不満を示すためNSCを開催したとみることもできる。

 またウッドワードは同書で、米中央情報局(CIA)の韓半島専担部局である「コリア・ミッション・センター」は、北朝鮮の政権交代を念頭に置いてつくられた-と主張した。17年1月のトランプ大統領就任直後、マシュー・ポッティンジャーNSCアジア上級部長は「北朝鮮を核保有国として受け入れることから、CIAの秘密工作や軍事攻撃を通した政権交代まで」九つのさまざまなオプションを提示したという。トランプは「最大の圧迫」を選んだ。

 当時CIA局長だったマイク・ポンペオは、CIAで29年勤務する間、北朝鮮に対し最も成功した諜報(ちょうほう)工作を行って引退していたエージェントのアンドルー・キムと会った。アンドルー・キムは「CIAの才能ある人間は(情報)収集、分析、秘密工作という異なる部門に散らばっている。それらの人材を一つのテントの下に集めなければならない」と提案した。ポンペオは「(CIAに)戻ってきて、コリア・ミッション・センターを作る気はあるか」と、アンドルー・キムにあらゆる支援を約束し、ついに彼がコリア・ミッション・センター長になることに同意した、とウッドワードは明かした。

 これについてウッドワードは「キムはトランプ大統領が工作を要求し、承認する公式命令に署名した場合、北朝鮮の指導者を転覆させる秘密工作を計画した」と記した。コリア・ミッション・センターは北朝鮮の体制転覆を念頭に置いてつくられたというのだ。ウッドワードは取材源を明かさなかったが、記述の流れからみてCIA内部の取材源だと推定される。

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