「ハングルの日」の9日午前10時50分ごろ、ソウル光化門周辺にある地下鉄の出口近くで激しく言い争う声が聞こえてきた。地下鉄5号線の光化門駅7番出口だった。30代の女性1人を7人の警察官が取り囲み、口論になっていた。警察官がこの女性に「都心で勤務していることを証明せよ」「社員証などの身分証を示せ」と要求したところ、この女性が「持ってこなかった」と答えたため口論になったのだ。女性は「ここから200メートルほど離れた弁護士会館の裏に会社がある。集会ではなく会社に向かっている」と説明したが、警察は「統制中なので通ることはできない」と制止した。さらに「機動隊バスを通り過ぎて大きく回れ」と指示し1キロほどの迂回路を案内した。女性は「会社がすぐ目の前にあるのに、なぜそんなに遠回りしないといけないのか」と抗議した。3分ほどの口論の末に、ある女性警察官が「私が会社まで案内する」と言って女性を連れ出した。女性は警察官について行きながらも、怒りが収まらない様子で「出勤はしないといけないでしょう」と叫んだ。

 この日、ソウル光化門の世宗路周辺はいわゆる「在寅(ジェイン)山城」で取り囲まれた。警察は広場周辺の道路に沿って機動隊バス500台以上をギッシリと並べて車壁を作り、歩道には鉄製のフェンス1万個以上を設置し最初から通れないようにするか、曲がりくねった迷路のような通行路を設置した。それでもここを通り過ぎる市民の前には例外なく警察官が立ちふさがり、「何の要件か」と質問しては身分証の提示を要求した。軍事政権時代の1980年代、多くの大学で行われた不審者に対する検問がまさにそのまま再現されたのだ。しかし当時も歩道を鉄製のフェンスで通れないようにするとか、迷路が設置されるようなことはなかった。

 「ハングルの日」のこの日、光化門周辺が封鎖される様子を目の当たりにした外信記者は「平壌の軍事パレードも2回取材したが、こんな光景ははじめて見た」と述べた。北朝鮮専門メディア「NKニュース」を運営するコリア・リスク・グループのチャッド・オ・キャロル代表はこの日、SNS(会員制交流サイト)に「昼食を取るためパン屋に行こうとしたら、警察の検問を4回受けた」「今のソウルは本当にこっけいだ」と伝えた。「狂っている」とも指摘した。

 警察は「世宗路周辺は車壁で遮断したが、開天節の時とは違って光化門広場まで二重の車壁で取り囲みはしなかった」と説明した。しかし広場に向かう全ての道路はその入口から封鎖し、バスではなく鉄製のフェンスで広場を取り囲んだのは同じだった。ハングルの日にもかかわらず、市民が近づくことさえできなかった広場中央の世宗大王像周辺はひときわがらんと見えた。

 ソウル市内の各地では市民が警察官と言い争う様子が目に付いた。午後1時55分頃、鍾路区のある教会前では40代の男性が警察官に向かって「向かいの教保ビルにあるオフィスに行かないと行けない。なぜ行けなくするのか」と怒鳴っていた。警察官が「シャトルバスに乗らないのなら、反対方向には渡れない」と説明した。警察はこの日、鍾路-粟谷路の区間を行き来するシャトルバスを4台運行した。この男性は「歩いて5分なのに、なぜシャトルバスに乗らなければならないのか」「密閉空間のバスの方がもっと危険だ。本当に防疫が目的なのか」と警察官に問いただした。

 この日、警察官に通行を制止された市民は「広場を封鎖し、通行を遮断したのは本当にコロナ防疫が理由だったのか」と疑問を呈した。実際にこの日午後3時ごろ、地下鉄光化門駅から100メートルほど離れたSタワーの駐車場では、出演者やスタッフなど50人以上がドラマ「スタートアップ」の撮影を行っていた。その中でマスクを着用していたのはわずか10人だった。警察の関係者は「われわれは集会を遮断している」とした上で「ドラマの撮影に問題があると判断すれば、ソウル市から規制や防疫の指導が入るだろう」と述べた。光化門封鎖の目的がコロナ防疫というよりも、ただ集会そのものの遮断にあることを示す光景だった。

 周辺の商店主らは「これでは客が来るはずがない」とため息をついた。光化門で飲食店を経営するチョン・ジウンさんは「売場には50以上のテーブルがあるが、今日の客は1グループで売上げは5万ウォン(約4600円)しかなかった」と話してくれた。この日午後2時ごろ、光化門のフォーシーズンズホテル前では7人の活動家が「政治防疫・庶民経済破綻糾弾記者会見」を行ったが、その前には30人以上の警察官が立ちふさがっていた。参加者らは会見後「政治防疫を糾弾する」とのスローガンを叫んだ。

◆「世界で最も平和な国」1位はアイスランド、韓国48位、TOP10は?

ホーム TOP