秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官は19日、憲政史上4回目となる捜査指揮権を発動し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長にライム資産運用事件から手を引かせた。71年間の憲政史で捜査指揮権は2005年に1回発動されたことはあるが、秋長官は最近4カ月で3回も捜査指揮権を発動した。相次ぐ捜査指揮権発動の出発点はいずれも「詐欺師の一方的な暴露」だった。

 秋長官は今年6月、韓明淑元首相の違法政治資金授受事件が検察に虚偽の供述を強要されたものだったと主張した人物の参考人調査をソウル中央地検人権監督室ではなく、大検察庁監察部で行うよう、捜査指揮権を発動した。大検察庁監察部長はリベラル傾向の裁判官による組織に所属する判事出身で、チョ・グク前法務部長官が推薦した人物だ。

 事件に関する再訴を行った人物は「企業狩り」犯罪やさまざまな詐欺、横領などの前科で懲役20年を超える刑を言い渡され、現在も服役している。しかも、その人物は韓元首相の事件とはいかなる関係もない。しかし、拘置所に収監されていた当時、韓元首相にカネを渡したとされるハン・マンホ元韓信建営代表が検察からうその供述を強要されていたことを伝え聞いたか目撃したと主張した。

 閔炳徳(ミン・ビョンドク)国会議員(民主党)が代表を務める法律事務所の弁護士、開かれた民主党関係者、与党寄りのインターネットメディアが問題の人物と刑務所で接見し、その主張に基づき、陰謀論に火をつけた。秋長官もそれに加勢し、参考人調査の主体を中央地検ではなく、大検察庁に変更するため、「検察総長に対する捜査指揮権」を活用した。4カ月たった現在でも大検察庁監察部はこれといった結論を出せずにいる。

 秋長官は今年7月、チャンネルA事件の捜査班が尹総長に報告を行わず、尹総長の監督も受けるなという内容の捜査指揮権を再び発動した。7000億ウォン規模の詐欺事件で懲役14年6月を言い渡され服役している金融詐欺犯、イ・チョル元VIK代表がチャンネルA記者から脅迫されたと主張したことが発端だった。

 イ・チョル氏と会ったこともない詐欺・横領の前科5犯の「情報提供者X」C氏がイ・チョル氏の「代理人」を務め、チャンネルA記者に接触し、その内容を伝え聞いたMBCはチャンネルAのイ・ドンジェ元記者と韓東勲(ハン・ドンフン)検事長による「検察・メディア癒着」だと報道した。

 全く面識がないイ氏とC氏を結び付けたのは、閔炳徳議員が所属する法律事務所の別の弁護士だった。秋長官は尹総長の側近、韓検事長が関与していたことを挙げ、チャンネルA事件の捜査から尹総長を排除した。しかし、独自の捜査権を与えられた李盛潤(イ・ソンユン)ソウル中央地検長の捜査班はイ・ドンジェ元記者を起訴した際、訴状に韓検事長を共犯として摘示することもできなかった。

 いずれの事件もまず「詐欺犯」が登場し、与党寄りのメディアがその人物の主張を報道すると、秋長官が尹総長の捜査指揮権を剥奪するという流れで進展した。ライム資産運用事件に対する捜査指揮権発動も同じだ。ライムによる政官界ロビー疑惑の中心人物であるキム・ボンヒョン元スターモビリティー会長は10月16日、「尹総長が野党関係者の捜査に否定的」という趣旨の獄中からの手紙を公表し、秋長官は3日後に尹総長が捜査に関与できないように捜査指揮権を発動した。9月21日に作成されたキム元会長の手紙は弁護士が1カ月預かり、検察の国政監査期間に合わせて公表された。キム元会長は1000億ウォン規模の横領以外に詐欺、背任、犯人逃避、虚偽告訴、業務妨害の疑いも持たれている。与党はキム元会長が10月8日に法廷で「姜琪正(カン・ギジョン)元青瓦台政務首席秘書官に5000万ウォンを渡した」と証言するまでは「悪質な詐欺犯」扱いしていたが、その後野党関係者によるロビー疑惑や尹総長を批判する内容の獄中からの手紙が公表されると一転「義人」として扱っている。

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