仁川市で2018年8月、妻の浮気を疑った夫が、妊娠した妻に暴行を加えて流産させるという事件があった。この男は、人を殴ってけがをさせた際に適用される「障害」の罪で懲役10月を言い渡された。人を殴って死なせれば「傷害致死」罪が適用され、さらに重い処罰を受けるが、胎児は人ではないため、妻を殴ってけがをさせた行為だけが処罰されたというわけだ。

 現行の刑法には、人を殴ってけがをさせたり死なせたりした際に適用される障害・暴行罪、過失致死傷の罪(第257-268条)と、堕胎罪(269-270条)が続けて書かれている。しかし、このように並べられている法の条項が、胎児に関しては言っていることが異なる。傷害罪は胎児を生命と認めず、堕胎罪は胎児を生命と見なしている。妊婦を暴行した男は命あるものを殺したことにはならないが、人工妊娠中絶を行った女性は命あるものを殺したと見なされる。これは矛盾だ。女性にとって不公正な矛盾だ。今回の政府の立法予告案もこの点を解決できてはいない。

 政府は10月7日、堕胎罪を規定した刑法と母子保健法の改正立法予告案を公告した。憲法裁判所が昨年、全ての人工妊娠中絶を全面的・一律的に禁止した現行法が憲法に「不合致」だと判断し、今年末までに改正立法をするよう求めたことに伴うものだ。

 政府の立法予告案によると、妊娠14週以内の人工妊娠中絶手術は無条件で許容される。14-24週の間は条件付きで許容され「社会・経済的な理由」でも中絶できるようになる。しかし、24週以降以降の手術はこれまで同様に、いかなる理由でも処罰の対象となる。

 既存の法律に比べると、女性の自己決定権を尊重する方向に改正されることになるが、堕胎罪が残っている限り、このような矛盾は変わらない。女性たちの怒りもここに集中している。法の鉄槌(てっつい)が女性にだけいっそう重く加えられるという怒りだ。

 政府の言う通り、中絶が罪ならば、女性が望まない妊娠をして中絶する場合、妊娠・中絶の原因を作った男性もまた「罪人」になるはずだが、これを処罰する法はない。特に、男性が性行為の途中でこっそり避妊具を外す「ステルシング」と呼ばれる行為を処罰する法が必要だという声が高まっている。すでにドイツ、スウェーデン、カナダなど一部の先進国ではステルシングを犯罪と規定して処罰している。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は就任前、フェミニスト大統領を自負していた。若者世代に対しては、公正な社会をつくると約束した。20代、30代の女性から見れば、政府が打ち出した堕胎罪立法予告案は、公正でもなければ、フェミニスト大統領の政策とも思えない。フェミニズムは女性を男性と同じ人格体として扱うことだということを、自称フェミニスト大統領は知らないのだろうか。法務部は来月16日までに政府案に対する意見の集約を行う。政府と国会が耳を傾けるべき、もうすぐ結婚する30代女性の声を本人に代わって伝えよう。

 「子どもを産めば『単独(ワンオペ)育児』をさせられ、子どもを中絶すれば『単独処罰』ですよね。以前よりはマシになったというけれど、子供を産んで育てる問題に関して、韓国は依然として女性に非常に不公正な社会のようです」

ナム・ジヒョン社会部記者

ホーム TOP