アジアで株式市場が活況の国々は偶然にも日本を20年間苦しめたデフレを経験している。日本も自国が経験したつらい教訓を忘れ、コロナで経済が低迷し、再び物価下落に直面している。デフレ圧力には伝染性がある。年初来、マレーシア、シンガポール、台湾、タイなどで消費者物価が下落した。中国では生産者物価の上昇率がマイナスを記録した。コロナが再び拡大傾向にある今、韓国は果たして無事でいられるのだろうか。

 コロナが経済に及ぼす余波はウイルスが人間を苦しめる方式と似ている。既に病気にかかっている人にコロナが致命的であるように、経済も同様だ。韓国経済で基礎疾患は政治的な安易さだ。過去10年間、韓国の歴代大統領は構造改革をしばしば口にした。アジア4位の経済大国がスタートアップブーム、生産性向上、革新経済、女性人材活用などを実現すれば、新たな突破口を開くことができた。しかし、歴代大統領は過去のやり方を捨てることができなかった。輸出主導政策と中央銀行による支援といった安易な対処で韓国は日本のような「失われた10年」を迎えるリスクに陥った。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権はコロナ対策では成功していると評されるが、経済では依然弱い姿を見せている。観光は今年、過去20年で最悪の経済成長を記録する見通しであり、政府は景気浮揚に重い負担を感じている。李柱烈(イ・ジュヨル)韓国銀行総裁が「不確実性が非常に高い」と警告し、政府の経済チームは政策金利の追加的引き下げを検討している。量的緩和路線を電撃的に採用することもあり得る。

 しかし、韓国経済の真の問題は構造改革だ。構造改革が遅れ、低成長の韓国経済はさらに大きな打撃を受けている。160兆ウォン(15兆円)規模のニューディール戦略はデジタル経済力を世界レベルに向上させ、カーボンニュートラル経済と200万人に達する雇用創出があってこそ意味を持つ。

 これはアジアの他国にも共通する現象だ。タイではコロナの逆風が国内総生産(GDP)の70%を占める輸出と観光を破壊している。タイ中央銀行が景気浮揚のために日本式の資産買い取りを検討しているが、根本的問題の解決には程遠い。タイの宿題は官僚主義を抑え、腐敗を減らし、企業の活路を開き、景気を浮揚させるために基礎教育訓練への投資を増やすことだ。マレーシアでは元経済官僚がデフレ防止のため、財政支出と構造改革を求めている。シンガポールは最近、輸出低迷で物価上昇率が0.5%前後にとどまっている。シンガポールはもう一度経済の動力源を多様化すべき時期を迎えている。ベンチャーキャピタルネットワークを構築し、規制を緩和すべきだ。

 仮に世界12位の経済大国である韓国でデフレが起きれば、それは東アジア経済に影を落とすことになる。韓国は今年5月、消費者物価が前年同月比で0.3%下落し、そうした兆候が表れた。当時李柱烈韓銀総裁は「(コロナが)世界経済全体に前例のない衝撃を与え、物価に相当な下振れ圧力を加えた」と評した。文在寅政権がコロナ第1波のように、第2波をしっかり管理しても経済はまだ危うい。過去数年間、韓国は世界経済の成長におる恩恵をかなり受けた。しかし、2021年にそうした期待をすることは難しい。世界経済の見通しが暗いからだ。米国はコロナ非常事態を脱することができずにおり、日本と欧州も同様だ。中国はそれでも安定した雰囲気だが、輸入を増やせずにいる。これは文在寅政権にとって重荷だ。雇用を創出し、勤労者の賃金を守り、企業と家計の信頼を得るためにもっと努力が求められる。

 当面の課題は「日本化」を避けることだ。残念だが日本は経済低迷が引き起こすわなにはまっている。日本の安倍晋三前首相は日本経済の野性を取り戻すとして、大胆な経済改革を推進した。柱は15年間続いたデフレを解消することだった。しかし、結果的に成功しなかった。

 アベノミクスはレーガン大統領やサッチャー首相のような瞬間を熱望した。しかし、自国の経済体制に衝撃を与え、インセンティブ体系を調整するのではなく、ただ陳腐な量的緩和に偏った。そこにコロナの衝撃が加わり、経済はもろくも崩れた。4-6月の経済成長率は年率換算でマイナス28%だった。菅義偉新首相が被害を最小限にとどめるためにあたふたするのにも理由がある。

 文在寅政権の経済は確実に日本の「失われた10年」を避けることができる。そのためには大胆で創意的な行動が必然的だ。その扉はいつまでも開かれてはいない。韓国経済の未来を脅かすデフレ圧力は徐々に迫っている。

ウィリアム・ペセックさん=経済コラムニスト、元ブルームバーグ記者

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