1980年代後半、ソウルの住宅価格が恐ろしいほど上がった。非難の声が激しくなると、盧泰愚(ノ・テウ)政権は首都圏に住宅200万戸を建設すると発表した。当時のラジオ番組で、電話がつながったリスナーが「亡国的な不動産投機は根絶しなければならない」と声を荒らげた。ところが、司会者が「まとまったお金があったら何がしたいですか?」と聞くと、リスナーから「当然、家に投資しますよ」とあきれた答えが返ってきた。

 英国の歴史学者ポール・ジョンソンは著書『インテレクチュアルズ-知の巨人の実像に迫る』で「他人に厳格な物差しを突きつけても、自分には寛容なのが人間の本性」と喝破した。その代表的な人物として、フランスの啓蒙思想家ジャン=ジャック・ルソーを挙げている。ルソーは著書『エミール、または教育について』に「周囲の悪い影響から子どもたちを保護しなければならない。その責任は母親にある」と書き、親の養育責任を強調した。ところが、自身は5人の子どもを孤児院に送った冷血漢だった。人々が非難すると、ルソーは「家事や子どもが出す騒音に満ちた屋根裏部屋で、働くのに必要不可欠な心の平穏を得ることができるだろうか」と弁解した。

 「ネロナムブル(私がすればロマンス、他人がすれば不倫=身内に甘く、身内以外に厳しいこと)」という言葉の語源ははっきりしない。1987年に出版された小説家・李文烈(イ・ムンヨル)の小説集『九老アリラン』に似た文章が出てくる。「そりゃお前がすればロマンスで、他人がすればスキャンダルと…」。この言葉を言った政治家がスキャンダルを「不倫」に変えて使ったのが「ネロナムブル」として定着したのではないかという。この政治家もセクハラ問題で物議を醸した後、「孫娘や娘のようでかわいいと思ってタッチしたもの」と言った。他人がすれば「セクハラ(性的嫌がらせ)」で、自分がすれば「なでなで」だ。

 大学教授団体による新聞「教授新聞」が今年の四字熟語に「我是他非」を選んだ。「私は正しく、他の人は間違っている」という意味だ。もともとは「ネロナムブル」を選んだのだが、これに合う四字熟語がなかったため、仕方なく「我是他非」にしたという。我是他非は「ネロナムブル」の本当の意味を表現できていない。そう考えると、「ネロナムブル」にぴったり当てはまる外国語の表現があるか気になった。米国在住の著述家チョ・ファユ氏は「英語では『double standard(二重規範)』という言葉が似ているが、『ネロナムブル』のようなニュアンスはない」と説明した。

 現政権ほど「ネロナムブル」という言葉が多く使われた時期はなかった。チョ国(チョ・グク)前法務部長官は「ネロナムブル」の「ラスボス」として登場した。「チョロナムブル(チョ国+ネロナムブル)」という言葉まで生まれた。あきれたのは、この政権の青瓦台の各執務室には「春風秋霜」という言葉が掲げられていることだ。「他人には春風のように温かく接し、自分には秋の霜のように冷たく厳格にせよ」という意味だ。それなのに、実際の行動は「ネロナムブル」である。それでも恥じ入るどころか、かえって目をむいて腹を立てる。どれだけ独特の精神世界を持っているのか理解できない。

金泰勲(キム・テフン)論説委員

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