2017年、北朝鮮に17カ月間拘束された後、解放されて6日目に死去した米国人大学生オットー・ワームビアさんの父親フレッド・ワームビア氏(61)が29日に公布された「対北朝鮮ビラ散布禁止法」について、「民主主義の国ではあり得ない、独裁者がやること」と批判した。ワームビア氏は「文在寅(ムン・ジェイン)大統領は脱北者をスケープゴート(いけにえ)にして金正恩(キム・ジョンウン=朝鮮労働党委員長)・金与正(キム・ヨジョン=同党第1副部長)兄妹にへつらっている。北朝鮮の操り人形になった」と語った。

 ワームビア氏は同日、本紙との電子メールインタビューで、「愛する人々(北朝鮮の住民)とつながるための行為(対北朝鮮情報流入、北朝鮮の住民に情報を送ること)を違法だとして処罰するという民主主義国家はこの世のどこにもない」と言った。29日に公布された対北朝鮮ビラ禁止法は、ビラ散布などにより南北合意書に違反した場合、3年以下の懲役または3000万ウォン(約280万円)以下の罰金に処するとしている。国会を通過した後、米国や英国などの自由民主陣営からは「表現の自由を侵害している」という指摘とともに、対北朝鮮情報流入の委縮を懸念する声が多数上がっている。ワームビア氏は「文大統領は脱北者社会を委縮させる可能性があることをあまりにも簡単にやった」「今回の法案は、ひたすら金正恩ただ1人にだけ有益だろう」と言った。

 ワームビア氏はまた、「独裁者たちは自分の立場を強化するためスケープゴートを選択することがある」「私の息子オットーも北朝鮮に人質に取られ、ひどい拷問に遭い、金政権の恥部を隠すための対内・対外宣伝に利用された」「文大統領は失敗であることが判明した対北朝鮮政策を挽回(ばんかい)するため、脱北者をスケープゴートにして金正恩・金与正にぬかずくことにしたようだ」と語った。行き詰まっている南北関係の突破口を切り開くため、文大統領は韓国国内の少数者である脱北者に対し、不当な弾圧に乗り出したということだ。

 ワームビア氏は今年9月に西海(黄海)で韓国人公務員が北朝鮮により殺害された事件の時も、「国民が外部の敵対的行為により負傷したり、死亡したりした時、指導者が立ち上がって、手段や方法を選ばずに正義を具現するのが民主主義の基本原理だ」と、文大統領に行動するよう促した。

 ワームビア氏は「脱北者社会は今回の立法で多くの犠牲を払うことになったが、決して無気力にやられてばかりはいないだろう」「今回の件で、彼らはいっそう大胆になるだろうと期待している」「私たちは金正恩政権のおぞましい人権侵害やウソの被害者だった」「これに屈せず、彼らと闘うことがどれほど重要であるか知っている」「国際社会は、対北朝鮮情報流入のための脱北者の犠牲と努力を支持し、北朝鮮の操り人形になると決めた文政権を批判している」と、励ましの言葉を伝えた。ワームビア氏は野党・国民の力の池成浩(チ・ソンホ)議員ら国内外の主な脱北者らと親交が厚いことで知られている。

 米国の官民では、今回の立法への対応策として、韓国の対北朝鮮人権団体に対する支援を求める声が高まっている。スコット・バスビー米国務省人権担当副次官補が先日、池成浩議員に会い、「法施行以降が心配だが、迂回(うかい)支援策を検討する」と語ったほか、全米民主主義基金(NED)も対北朝鮮情報流入のための新プロジェクト進行を検討していると伝えられた。韓国外交部はこのような懸念を払しょくするため、「広くコミュニケーションを図る」という見解を繰り返している。

 ワームビア夫妻は息子の死から約3年間、全世界を飛び回って公の場で北朝鮮に対する国際社会の圧力を呼びかけている。今月12日に息子の26歳の誕生日を迎えた際のメディア・インタビューでは「北朝鮮のおぞましい人権侵害に対抗し、今後も闘い続ける」と語った。

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