コラム
【コラム】自国では帝王、海外では仲間外れ
文在寅(ムン・ジェイン)政権のコロナ対策において最大の疑問がワクチン・ミステリーだ。全ての先進国、東南アジア諸国に至るまでワクチンの早期確保に成功しているが、なぜ韓国だけが出遅れたのか。税金の無駄遣いを恐れない文在寅政権が、事前のワクチン購入をなぜあれほど渋ったのだろうか。これについて問い詰める野党議員らに丁世均(チョン・セギュン)首相は「(ワクチンを確保した)その国に行って聞け」と言った。「他国のやることがなぜそれほど重要なのか」と逆ギレしたかのような反応だった。
丁首相の言葉にヒントがあった。「他国の動きは重要ではない」というのは、文字通りそういう意味だった。文在寅政権は国外の動きから顔を背けていたのだ。ワクチン確保競争が他国との「政府間競争」という事実を認識できなかったのだろう。限りあるワクチンの物量を確保するには周りよりも素早く、より戦略的に動かねばならない。米国や欧州諸国が総力を上げ、イスラエルが情報機関まで動員したのもそのためだ。しかし韓国政府だけは最初から手をこまねいていた。いつもやってきたように、「企業の腕を締め上げさえすれば、あちらからワクチンを差し出してくる」と勘違いしていたのかもしれない。
文在寅政権による4年間の政権運営は「内強外弱」という言葉で要約できるだろう。国の内側では帝王のように君臨するが、外の世界では「いじめられっ子」のように一人でうろついている。労働者が死亡すると、事実上の過失がない場合でも経営者を1年以上の懲役に処することを定めた「重大災害企業処罰法」はその典型だ。この法律を強行した政界関係者が説明できない事実がある。それは世界のどこの国にもこのような法律はないということだ。唯一英国に同じような規程があるそうだが、その英国も法人にのみ罰金を科すだけだ。具体的な過失の有無とは関係なく、経営者個人に対し、それも懲役刑の最低ラインまで決めて処罰する国などどこにもない。産業史に残る世界最初の立法の事例が誕生したのだ。
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他国はなぜこの「重大災害法」を制定しないのだろうか。厳しい処罰だけでは労働災害を事前に防げないことを知っているからだ。韓国はすでに労働災害に伴う処罰が十分に厳しい国だ。安全、保健、環境に関する規制を守らず、それによる事故を理由に事業主を処罰する法律は63、罰則の規定は2555に達する。24歳の非正規社員だったキム・ヨンギュンさんの事故をきっかけに、産業安全法における処罰も大きく強化された。しかし「キム・ヨンギュン法」施行後も労働災害は減少しなかった。現場でしっかりとルールを守らないからだ。いくら厳しく罰し、強い規制をかけても、現場の意識が変わらなければ意味がない。経営者を刑務所送りにして解決するのであれば、同じような法律は世界の標準になっていたはずだ。
文在寅政権の政権運営は世界とは別の「われわれ式」が特徴だ。「所得主導成長」は文在寅政権が初めて実行する世界を見回しても前例のない実験だ。もしこれが成功すれば、経済学の教科書を新たに書き換えねばならない。「馬車が馬を引っ張る」と言われる奇跡を実現する結果となるからだ。ただひたすら規制ばかりの不動産政策は、それ自体が世界的に話題となるに十分だ。供給もない状態で不動産価格を押さえ込もうとする政府はこの世の中に存在しないからだ。何でも金で解決する税金万能主義、官主導の「大きな政府」、民間ではなく公共に重点を置く雇用対策など、全てがグローバルなトレンドに逆行するものだ。
どこの国の政府も自国の企業が競争に勝ち抜けるよう支援する政策を進める。しかし文在寅政権は正反対だ。激しい生存競争に立ち向かう企業に対して政府は後ろからタックルを仕掛けている。文在寅政権は「企業規制三法」として他国には存在しないか、あるいはあまりにも過激な経営権への攻撃手段を導入した。週52時間労働は世界で最も硬直した非弾力的構造として設計された。政府が先頭に立って企業を海外資本の攻撃にさらし、夕方には研究所の明かりを消させた。最初からグローバル競争で落ちこぼれさせるつもりだったかのようだ。
ただ内政に限って言えば、文在寅政権は卓越した手腕を発揮した。政敵を排除し、権力機関を私物化し、大企業の制御権を握り選挙で連戦連勝した。このように国内では非常に勢いのある政権だが、国外では無能の極致を示している。
この政府による一連の外交惨事はすでに知られた通りだ。韓米同盟に亀裂を入れ、友好国との関係は破綻した。対北ビラ禁止法が米国議会の聴聞会で取り上げられ、北朝鮮の人権問題では世界で恥をかいている。米国務長官が日本まで来たのに韓国をスルーする事態も起こった。このように中国と北朝鮮にばかり歩調を合わせたにもかかわらず、大統領は中国に行くと「(一人)ぼっちめし」という形で冷たくあしらわれ、北朝鮮からは「ゆでた牛の頭」とまで言われた。国際会議が開催されるたびに、各国首脳のそばで一人うろつく文大統領の姿は、見ているだけで歯がゆくなってくる。グローバルな世界で孤立が進む政権運営を象徴するかのようだった。
運動圏(左派の市民学生運動勢力)の頭の中には「自閉DNA」が刻まれている。中国に文化大革命という血の嵐が吹き荒れ、ソ連が崩壊しても、そこから顔を背けてきた彼らが政権の核心に布陣した。「他国のやることがなぜ重要なのか」という言葉は「われわれ式」の路線であることを明かしたようなものだ。外に顔を向けない運動圏政権の自閉的世界観が国の進路を逆走させ、大韓民国を孤立に追い込んでいる。
朴正薫(パク・チョンフン)論説室長