中堅作家イ・ヘギョンの短編小説『彼我間』は、主人公ギョンウンが周囲の人々に不妊の事実を隠したまま養子縁組を申し込み、妊娠したかのように装うというストーリーだ。ギョンウンはもともと週末に障害児施設でボランティア活動をしていて、周囲の人々の俗物根性に冷ややかな視線を送っていた。ところが、いざ養子縁組を申し込む時は、「つらい経験をしたのではなく、愛し合った中で生まれた子どもだったらいいな」と言いつつ、自身も周囲の人々とあまり変わらないことを痛感する。

 2年前、ハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリーの長男マドックスが延世大学に入学したことが話題になった。ジョリーは元夫ブラッド・ピットとの間にシャイロ、ノックス、ビビアンという3人の子を出産したが、国籍の異なる3人の子も養子として迎えた。マドックスはカンボジアから、パックスはベトナムから、ザハラはエチオピアからそれぞれ迎えた養子だ。俳優チャ・インピョと女優シン・エラ夫妻にも実の息子がいるが、娘2人を養子縁組した。同夫妻は「胸で産んだ子ども」という言葉で養子縁組に対する認識を大きく変えた。

 監査院の崔在亨(チェ・ジェヒョン)院長も妻との間に2人の娘がいるが、2000年と2006年に次男、長男の順に養子を迎えた。崔在亨院長は2011年、法律新聞とのインタビューで、「養子縁組は、陳列台にあるモノを選ぶように子どもたちを選ぶことではない」「養子縁組は文字通り子どもに愛と家庭という囲いを何の条件もなく提供するという決意がなければならない」と述べた。いくつかの単語の端々に、養子縁組とは何かが簡潔ながらも明確に表れている。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は18日の年頭記者会見で、養父母が養子を虐待して死亡させた「ジョンインちゃん事件」の対策として、「養子縁組を取り消したり、子どもと合わない場合は養子を取り換えたり(するなどの)対策も必要だ」と述べた。これに対して、「子どもは返品できるモノなのか」「ジョンインちゃん事件の本質が何なのか分からないようだ」との批判が相次いでいる。青瓦台は「大統領の頭の中には児童返品などという意識そのものがない」と反論した。だが、文大統領は養子縁組に関して知らない、あるいは間違った考えを持っているようだ。

 自分の子どもを育てるのも大変なのに、血のつながらない子どもを養子として迎えて育てている人々を見ると、おのずと尊敬の心が芽生える。特に、障害児を養子縁組して愛をもって育てる人々を見ると、そういう方々は天使ではないかとさえ思う。2019年に韓国で養子縁組された障害児は163人だった。このうち3分の2を超える112人は海外で養子縁組された。難しい境遇の児童を養子として迎える割合は国内よりも海外の方が高いそうだ。養子縁組は誰でも決して容易にはできない決定だ。こうした天使たちには頭が下がる。

キム・ミンチョル論説委員

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