政界と官界では当初、康京和(カン・ギョンファ)外交部長官の名前は、今回の内閣改造の対象として挙がっていなかった。外交部周辺では、現政権の「(発足)元年メンバー」である康京和長官は文在寅(ムン・ジェイン)大統領の厚い信任をもとに5年の任期を全うするだろうという意味で「五京和(オ・ギョンファ)」とまで言われた。こうした予想を裏切って康京和長官が交代となった背景をめぐり、外交関係者の間では「北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)氏の先月の非難談話が影響を与えたのではないか」という見方が出ている。

 朝鮮労働党中央委員会の金与正副部長は先月9日の談話で、康京和長官を名指しして「北南関係にいっそう冷気を吹き込ませたくて躍起になっている」「いつまでも忘れない」と警告した。康京和長官が同月5日にバーレーンで行われた国際会議で、「新型コロナへの挑戦が北朝鮮をさらに北朝鮮らしくした」と言ったことに対して、金与正氏は「おこがましい妄言」「正確に計算されなければならないだろう(きっちり清算する、あるいは代償を払うことになるだろう)」と非難した。

 昨年6月には、「金与正談話」の余波の中、統一部長官と国防部長官が相次いで交代となった。金錬鉄(キム・ヨンチョル)前統一部長官は金与正氏の6月談話の2週後「南北関係悪化の責任を負う」として辞意を表明し、鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)前国防部長官も同月、金与正氏の指揮を受ける金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党中央委員会副委員長を非難する談話の約2カ月後に退いた。

 しかし、金与正氏の談話が昨年12月にあったものの、「康京和長官の地位にはそれほど影響がないだろう」という見方の方が強かった。康京和長官は文大統領の全面的な信頼を得ていると言われていたし、金与正氏が文政権の人事政策を左右しているような印象を与えないためにも、康京和長官をすぐに交代させる可能性は小さいと見ていたためだ。

 ところが、金与正談話から1ヵ月あまりで康京和長官が交代になると、官庁街では「金与正に目をつけられたら無事ではいられない」という意味で「金与正デスノート」という言葉が飛び交い始めた。与党関係者は「新型コロナ防疫やワクチンなどで南北協力再開を推進する文政権にとっては、金与正氏が実名で非難した康京和長官の進退を深刻に考えるしかなかったのだろう」と話す。

 外交部次官を務めた野党・国民の力の趙太庸(チョ・テヨン)議員は同日、プレスリリースを通じて「五京和も金与正の一言で崩れた」「文政権の外交・安保関連長官人事は北朝鮮の口をうかがい見なければならない状況だ」と語った。

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