▲事件当日のタクシー運転手の頸部(けいぶ)--。昨年11月、李容九法務部次官に首筋をつかまれるなど暴行を受けたタクシー運転手の頸部には赤い跡が残っていた。/TV朝鮮

 李容九(イ・ヨング)法務部次官から暴行を受けたタクシー運転手Aさんは24日、本紙の6時間半にわたる同乗インタビューに応じ、当時の暴行過程や警察の捜査過程、現在の心境を詳細に語った。Aさんは「李次官が和解の過程で暴行映像の削除を要請し、その後警察は映像を見ても『見なかったことにする』と語った」という。Aさんのインタビューに基づき、当時の暴行状況と捜査過程を再構成した。

■李次官、暴言を吐き暴行

 李次官(当時弁護士)が酒に酔い、ソウル市江南区道谷洞のマンションからAさん運転のタクシーに乗ったのは11月6日午後11時18分ごろ。乗車地点は当時月城原発の経済性評価ねつ造疑惑で検察の捜査を受けていた白雲揆(ペク・ウンギュ)前産業通商資源部長官のマンションだったという。李次官は白前長官の弁護士だった。目的地は車で15分の距離にある瑞草区瑞草洞の自宅マンションだった。Aさんは「江南駅十字路の左折信号が点滅しているのに、後部座席にいた李次官が突然ドアを開けたので、『大変なことになるから、ドアを開けたりしてはだめですよ』と告げると暴言を吐いた。『閉めてください』と言っても、何か暴言を口にしていた。そして、3-4分後に瑞草区のマンション前に到着した」と語った。Aさんが眠った李次官に『着きました。ここで降りますか』と尋ねると、李次官はいきなり暴言を吐いたという。Aさんが「私をののしったのですか」と聞くと、李次官は「お前は誰だ」と首筋をつかみ、Aさんが「タクシー運転手です」と答えると手を離したという。

 Aさんの112番通報(日本の110番に相当)を受け、警察が出動した。当時派出所でブラックボックスのSDカードに記録された暴行映像を確認しようとしたが、「0ギガバイト」と表示されて内容を確認できなかった。翌日Aさんはソウル市城東区のブラックボックス業者を訪ね、映像が保存されているのを確認。その映像を携帯電話で撮影した。同じ日に李次官が電話をかけてきて謝罪した。Aさんは「反省してほしい」という意味で映像を李次官に送ったという。

 さらに翌8日、李次官がAさんの自宅近くのカフェに訪ねてきて、和解金を提示して謝罪したので、Aさんは和解に応じたという。李次官は「映像を消すというのはどうか」と要請し、Aさんは「消す必要があるか。(警察に)見せなければいいだろう」と答えたという。和解金の金額について、Aさんは「明かせない」と語った。

■捜査官「映像は見なかったことにします」

 和解翌日の9日、瑞草署に出頭したAさんは「ブラックボックス業者を訪れ、復元を試みたが、(暴行)映像がなかった」と説明した。A次官と和解したため、そう答えたという。しかし、警察はブラックボックス業者に電話をかけ、映像が存在した事実を確認し、11日にAさんを再度呼び出した。それを受け、Aさんは長さ30秒の暴行映像を担当捜査官に見せた。李次官がAさんの首の後ろをつかむ暴行場面が記録された部分だった。捜査官は「車が停まっていますね。見なかったことにします」と話したという。車が停車中なので「走行中の運転者暴行」を定めた特定犯罪加重処罰法の規定には該当しないと説明したという。Aさんは「一時停車中だが、変速機はD(走行)に入れた状態で、ブレーキを踏んでいた」と主張した。

 特定犯罪加重処罰法5条10項は「運転中の自動車の運転者を暴行、脅迫した者は5年以下の懲役または2000万ウォン(約188万円)以下の罰金に処す」と定めている。特に「運転中」の定義については「運転者が旅客の乗降などのために一時停車した場合を含む」とされている。この容疑には被害者が処罰を望まなければ処罰を行わない「反意思不罰」が適用されない。しかし、警察は李次官に特定犯罪加重処罰法を適用せず、「単純暴行」として処理し、「反意思不罰」を理由に立件すらせずに内偵を終結させた。

 Aさんは「警察に別途映像を持ち込まなかった。自分も和解状態だったので、『見なかったことにする』という言葉に抗議したり、捜査を要求したりはしなかった」と説明した。ただ、「警察が映像の存在を知っていながら、その後自分について、(映像がないと)虚偽陳述を行ったとだけ言っているのは悔しい」と話した。Aさんは警察の内偵終結後、携帯電話から暴行場面を消去したが、警察は先月の再捜査でそれを復元した。

 李次官の弁護士は24日、「ブラックボックスの映像は事件の実態を客観的に判断できる根拠になるので、経緯はどうであれ、捜査機関に提出されたのは幸いだ」とする立場を表明した。和解過程で金銭を払い、映像消去を求めておきながら、今になって「幸い」と言い始めた格好だ。

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