京畿道華城市内に住む会社員チェさん(30)は昨年12月に結婚式を挙げたが、まだ法的には「未婚」だ。婚姻届の提出を先送りし続けているからだ。チェさんは「夫と相談したが、婚姻届を出すメリットはなくて、デメリットばかりたくさんあった」「両親も『特に必要なければ、一緒に暮らしてみてからしなさい』と言ってくれたので、子どもが生まれたらその時、届を出すつもりだ」と話す。婚姻届を出したところで、「新婚夫婦住宅特別供給」の要件に該当しないこともチェさんの決定に大きな影響を与えた。共働きであるチェさん夫婦の年間合算所得は1億2000万ウォン(約1150万円)で、新婚夫婦の住宅請約(建設計画段階の分譲物件購入契約申込)優先供給基準である、都市勤労者の平均所得の120%(8100万ウォン=約770万円)をはるかに上回る。チェさんは「婚姻届を出さなければ、私と妻が各自の通帳で請約できるので、分譲契約の機会が2倍になる」と言った。

 新婚夫婦が婚姻の事実を国に届け出る厳粛な手続きである「婚姻届」も、最近は一つの「財テク」手段に成り下がった。新婚夫婦に対する不動産支援助が少ない一方で、制約は多いため、有利か不利かをよく見極めて「偽装未婚」を自任する若い人々が増えているのだ。現政権になってから不動産価格が急騰し、新婚夫婦の力だけでは借家暮らしさえ難しくなっている現実を反映している。

 韓国統計庁が3月9日に明らかにしたところによると、昨年提出された婚姻届の暫定集計件数は21万3513件で、統計が開始された1981年以来、最低の数値を記録したという。前年比10.7%の急減で、これまでで最も減少幅が大きかった1997年アジア通貨危機時(10.6%)を超えた。これまでの婚姻数減少に加えて、結婚をしても「婚姻届」を出さない現象が反映されたものと受け止められている。

 来月結婚予定の公務員イムさん(28)は、はやる気持ちで昨年12月、婚姻届を早々に提出したが、かえってひどい目に遭っている。今年1月に運良く住宅請約で当選したが、2023年10月の入居まで借家暮らしするための資金に困っているからだ。イムさんは「請約に当選しただけで、『住宅を既に1軒所有している者』と見なされる上、夫婦合算所得も1億ウォン(約950万円)を超えるため、いくら安い伝貰(チョンセ=契約時にまとまった額の保証金を賃貸人に預け、月家賃がない不動産賃貸方式)物件入居資金の融資を受けようとしても、ソウル保証保険で貸してもらえる3.08%が一番ましだった」「もし婚姻届を出していなかったら、『所有住宅がない者』である妻が2%程度の利率で市中銀行から借りることができただろう」「政府は婚姻届を出した夫婦を援助するどころか、事実上、独身者よりも高く借家暮らしをさせているのではないか」「婚姻届のメリットがあるとすれば、配偶者手当で月給が4万ウォン(約3800円)高くなったことだけ」と話した。

 婚姻届の提出を先送りして「偽装未婚」生活をしている若い夫婦たちは「今の不動産市場では、婚姻届を出すと、家を購入する方法がなくなる」と口をそろえる。政府が提供する「新婚夫婦特別供給」はハードルが高く、婚姻届を出すと法的に「一体」になるため、それぞれが未婚者として請約するよりもチャンスが半分に減るということだ。婚姻届を出すと年末調整で配偶者控除を受けられるなどのメリットもあるが、不動産で得られるメリットほどではないというのが若い夫婦たちの話だ。

 若い夫婦たちにとって、今や婚姻届を出す時期は「結婚した時」ではなく「不動産売買に有利な時」になった。3年前に結婚してソウルで暮らしているイムさん(34)夫婦もまだ婚姻届を出していない。イムさん夫婦は結婚前さまざまな財テクで手腕を発揮し、家を1軒ずつ買った。婚姻届を出すと、「1世帯2所有住宅者」になる。イムさんは「2017年8月2日の『8・2不動産政策』で、所有住宅が複数ある者は譲渡税負担が重くなるが、新婚夫婦譲渡税免除は婚姻届提出後5年までだ」「不動産市場をもう少し見守り、家を売るのにいい時期が来たら婚姻届を出そうと思う」と言った。

 会社員のキムさん夫婦(29)は婚姻届を出さず、昨年10月に5億ウォン(約4800万円)で買ったソウル市冠岳区奉天洞の17坪(約56平方メートル)のマンションで一緒に暮らしている。キムさんは結婚して財産を一つにする代わりに、お相手の女性に現金を貸して借用書をもらう形で共同資産にした。キムさんは「政府が新婚夫婦特別供給恩恵を与えるのは婚姻届提出後7年までだ。ひとまず、もっと良い家に引っ越す資金をためた上で届を出すつもりだ」と言った。

 若者たちが集まるインターネット上の結婚準備コミュニティー・サイトや、母親向けコミュニティー・サイトなどには「婚姻届提出のメリット・デメリット」や「最適の時期」を尋ねる書き込みが多い。「婚姻届 皆さんいつ出しましたか?」「請約のため婚姻届を出さなければならないのか、悩んでいます」などの問いかけがある。コメントには「最近、結婚後2年くらいは提出しないようです」「私も提出していませんが、10年は出さないつもり」「あえて出す必要はない」などの反応が主流だ。

 「婚姻届を出すな」とあおる、いわゆる「不動産財テク専門家」も多い。ある不動産関連ブログには先月28日、「1住宅所有者の新婚夫婦にとって最高の財テクは婚姻届提出を遅らせること」というタイトルの文章が掲載された。6日には動画投稿・共有サイト「ユーチューブ」のあるチャンネルにも、「住宅を複数所有しているなら税金が高いので、子どもが生まれても『未婚の母』のままでいる人もいる」という内容の動画がアップロードされた。成均館大学社会学科のク・ジョンウ教授は「結婚当事者たちは好きこのんで婚姻届を出さないわけではない。ここまでしなければ住宅が所有できないという世の中が問題だ」「政府は、婚姻届を出していない夫婦の結婚生活実態を把握し、なぜそうするしかないのかをよく聞き、それに合った対策を講じなければならない」と語った。

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