先月、『最美逆行者』という中国ドラマを3分の2ほど見たものの、途中で見るのをあきらめた。このドラマは中国で7億人が見て大ヒットしたという。この作品を輸入した会社は、同ドラマが実話に基づいて作られたとしている。しかし、開始から1時間ほど経つと、露骨な中国共産党賛美と大仰な演技のプロパガンダ宣伝物であることが分かった。

 ストーリーは単純だ。中国武漢市で新型コロナウイルス感染症が発生した後、市民たちが市を脱出するさなか、医療従事者たちは逆に武漢に入っていったという内容だ。この過程で、男女主人公たちの愛と家族をめぐる古くさい芝居があるが、あまりにもレベルが低いので見ていて終始、落ち着かなかった。

 実話を基にしているというが、新型コロナウイルス感染症の初期に武漢市で見られた中国共産党と医療従事者たちの未熟な対処や市民の悲惨な死などには触れられていない。ひたすら中国共産党幹部と医療従事者たちの献身ぶりばかりが繰り返される。中国共産党の過度な検閲制度が中国映画を韓国の1980年代の反共映画レベルまで退行させてしまったのだ。

 先日、韓国で『朝鮮退魔師』というファンタジー時代劇が歴史歪曲(わいきょく)騒動により打ち切りとなる初の事態が発生した。今回騒動になったのは、韓国の歴史の中で「聖君」とあがめられ、慕われている世宗大王が即位前に忠寧大君と呼ばれていたころ、明(ミン)との国境付近にある妓生(キーセン)屋で外国人司祭や通訳に中国の伝統的な料理である月餅(げっぺい)、皮蛋(ピータン)、中国式ギョーザなどでもてなすシーンがあったからだ。

 結局、打ち切りが決まり、制作会社と放送局が正式に謝罪したが、その影響は続いている。ドラマを放映した放送局では数百億ウォン(数十億円)台の損失が発生、制作会社の親会社であるYGエンターテインメントの株価は連日下落した。今回の歴史歪曲騒動により、今後放送を控えているファンタジー時代劇も「火の粉が飛ぶのではないか」と緊張している。

 ファンタジー時代劇の歴史歪曲騒動は毎回あった。歴史的な出来事のうち、大きな幹だけ取り入れ、あとは創作者が考証なしに肉付けして作るからだ。いつものハプニングだが、今回はこれまで積もり積もってきた反中感情と相まって、騒動が大きくなった。中国がキムチ、韓服、サムゲタンなどもすべて中国に由来すると主張した「文化の東北工程」(東北工程=高句麗など韓国の歴史を中国史に編入しようとする中国の取り組み)に対する反中感情がちょうど『朝鮮退魔師』の歴史歪曲と重なって、激しさを増して表出したものだ。

 毎年、数多くのコンテンツが制作されているため、レベルの低いコンテンツがあるのも当然だ。『朝鮮退魔師』も批判すべき部分は批判し、まだ放送していない回については修正・編集して放映すればいいことだった。もっと言えば、そのまま何もせずに放っておいても良かった。どうせレベルの低い作品は視聴者にそっぽを向かれ、その作品の演出家や脚本家は次の作品に携わる機会をつかむことも難しくなるからだ。

 ところが、今回の事態は単なる批判にとどまらず、創作者の創作活動まで制約しようとする感情が入り交じった反応として出ていることについては、深刻に受け止める必要がある。これまで映画、ドラマ、そしてウェブ漫画に至るまで、「クッポン(過度な国粋主義・愛国主義を皮肉ったインターネット上の新語)」世論や極端なフェミニズム勢力は、自分たちの口に合わない創作者に圧力を加え、反省文を書かせる姿を時折見せてきた。

 このような姿は、我々が批判してきた中国の姿と変わらない。外国人が中国文化に対して気に障る発言をすると、突然愛国主義的なムードがわき起こり、外国企業に対して不買運動を展開、物理的な暴力を行使することもあった。そして、該当の企業は泣く泣く反省文を書いた。

 想像力に足かせをはめ、自己検閲を強要すれば、創作者は非難されないようクッポンとポリティカル・コレクトネス(政治的正当性)主義のコンテンツしか作らなくなる。そして結局は韓国が誇る映画やドラマ、K-POPも昔に逆戻りするしかない。

 哲学者のフリードリヒ・ニーチェは「怪物と戦う者は、その際自分が怪物にならぬように気をつけるがいい」と言っている。

 歌手イ・ヒョリは昨年、あるバラエティー番組で「芸名でマオはどうですか?」と発言、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の個人アカウントに中国のネットユーザーたちから「毛沢東(中国語読みでマオ・ツォートン、元中国国家主席)を侮辱した」というコメントが20万件も寄せられる「テロ」に遭った。

 食卓に中国式ギョーザが載ったドラマのワンシーンに、今回のようにこぞって興奮する珍現象は、いくら考えても理解しがたい。我々も既に愛国主義の怪物になってしまったのではないだろうか。

キム・チャム社会部長

ホーム TOP