▲9日午前(韓国時間)、イランのバンダレ・アッバース港に近いラジャイ港から出発する韓国船籍の石油タンカー「韓国ケミ号」。手前は、同号に向かって手を振る駐イラン韓国大使館のキム・ジェウ副領事。写真提供=外交部

 イランに抑留されていた韓国船籍の石油タンカー「韓国ケミ号」と船長が9日、解放された。イラン側が「海洋汚染」を理由に抑留してから95日後のことだ。イラン側は解放する時もどのような海洋汚染を引き起こしたのか明らかにしなかった。

 今回の解放は、米国がイランとの核合意(JCPOA=包括的共同作業計画)を復活させるための交渉に最近乗り出し、韓国国内で凍結されているイランの資金のうち10億ドル(約1097億円)の解除を提案した、という報道と相まって実現した。また、韓国でも凍結資金を利用し、支払いが遅れているイランの国連分担金1600万ドル(約17億5000万円)を立て替えることにしたと伝えられた。「結局、イランは米国から制裁解除とカネを引き出すために韓国人を『人質』として利用したのではないか」と批判する声もある。

 韓国外交部は同日、「イランのバンダレ・アッバース港に近いラジャイ港に抑留されていた韓国ケミ号と船長が今日解放された」と明らかにした。同号はひとまずアラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラ港に向かって出発した。フジャイラ港で各種の検査・手続きを行った後、帰国の日程が決まるという。イランは今年1月4日、ホルムズ海峡近くの海域を航行していた同号と韓国人5人を含む船員合計20人を海洋汚染の疑いで拿捕(だほ)した。2月2日に船員19人を解放したが、船長は引き続き抑留されていた。「船長は船舶を管理し、法的責任を取らなければならない」というのが理由だった。

 韓国政府もイラン政府も正式には認めていないが、今回の韓国ケミ号拿捕は70億ドル(約7676億円)と言われる韓国国内のイラン資金凍結問題が原因と見られている。韓国とイランは米国の制裁を避けるため、事実上、物々交換で取引をしてきた。イランが韓国に石油を輸出すると、韓国は石油の代金を韓国企業銀行にあるイラン中央銀行名義の口座に入れ、イランはこの口座から金を引き出して生活必需品や必要なものを買って持って行くというやり方だ。こうしてたまった資金は70億ドルに達する。ところが、ドナルド・トランプ前米大統領が2018年にイランとの核合意を破棄して制裁を強化したことから、イランはこの資金を使うことができなくなった。この70億ドルはイランが保有している海外資産の中で最大の額だという。

 だが、イランとの交渉の可能性を示唆したバイデン政権が今年1月に発足したことでムードが変わった。イランは今月6日から米国をはじめとする核合意当事国と核合意復活のための本格的な交渉に乗り出した。外信によると、米国は交渉で、イランが核兵器を作るための前段階とされる濃度20%のウラン濃縮を中止する見返りに、10億ドル規模の凍結資産解除をイラン代表団に提案したとのことだ。現実的に見て、10億ドルというイランの資金を解除できるのは韓国がほぼ唯一だという。交渉が進行中の状況で、イランも韓国船舶を抑留し続けることに負担を感じた可能性が高い。

 この過程で、韓国も米国の制裁下で許可されているイランとの人道的交易を拡大、凍結資金でイランの国際機関分担金を支払う案を米国と協議してきた。イランは1600万ドルに達する国連分担金未納で投票権が停止されているが、これを韓国に立て替えるよう要求してきた。韓国外交部当局者は「国連分担金納付は近々あると見られる」「昨年4月にイランとの人道的交易が再開されて以降、これまでに約3000万ドル(約33億円)の医療機器が輸出され、増え続けている」と語った。

 韓国側はイランを説得するために高官級使節団の派遣も約束した。韓国首相室は同日、丁世均(チョン・セギュン)首相が11日から13日までイランを訪問することを明らかにした。韓国の首相のイラン訪問は44年ぶりだ。これについて、韓国政府関係者は「イラン側の気が変わる可能性がある状況なので、抑留船舶の解放前に首相が先にイランに行くことはできなかった」と説明した。

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