7日昼、ソウル地下鉄明洞駅6番出口からウリィ銀行に至るまでの「明洞8キル(キル=道、通りの意)」。2年前までは「爆弾セール」「中国人旅行者熱烈歓迎」といった言葉が店の前に掲げられ、客引きが中国語や日本語で声をかけて外国人観光客を呼び込んでいた、韓国を代表するショッピング・ストリートだったが、今はもう、そうした姿は影も形もない。3軒に2軒は店の明かりが消え、窓ガラスには「賃貸物件」「都合により休業」などの紙が貼られているばかりだ。

 本紙記者が明洞を起点に約1.2キロメートル歩き、商業地にある建物・ビルの1階を調べてみると、249カ所のうち149カ所が空室または休業中だった。これは全体の約60%に達する。 2階以上はさらに深刻で、ビルの全フロアが空室となっているケースも多かった。不動産価格公示などを行う公企業の韓国不動産院が発表した今年1-3月期のソウル・明洞商業地の空室率38%よりもはるかに深刻な状況だ。午後2時ごろ、化粧品店で撤去作業をしていたイさん(53)は「契約期間に縛られたまま休業していた店が、契約が終わると次々と廃業する」「以前は夜遅くまで大勢の人々でにぎわっていたのに、こんなことになるとは想像もできなかった」と言った。

 韓国の代表する商業地・明洞が転落の一途をたどっている。10代から80代まであらゆる年代の人々が訪れ、(1997年の)アジア通貨危機でも揺らがなかった明洞も今は昔だ。なぜこんなことになってしまったのだろうか。30-40年にわたり明洞を見守り続けてきた自営業者らは「新型コロナウイルスのためだけではない。我々は間違っていた」と言った。

 新型コロナにより潮が引くように外国人観光客がいなくなり、明洞の「素の顔」がそのままあらわになった。29年間にわたり「カフェ・コイン」を経営してきキム・ソクスさん(62)は「2000年代初めまで明洞は個性のある店が多かったが、それ以降は外国人をターゲットにした化粧品店・衣料店ばかりになり、商業地としてとても単調になった」「あらゆるマーケティング・ポイントを外国人客だけに絞り、韓国人客には関心を抱かなかったため、客が弘大・建大・狎鴎亭のような副都心部に分散した」と話す。明洞観光特区協議会のファン・ドンハ会長は「外国人観光客の82%が明洞に来るほどだったため、外国人観光客にすべて合わせたが、それが問題だった」「韓国人客は来ても化粧品を1-2個買う程度だったが、外国人客は100万-200万ウォン(約9万7000-19万円)買うため、店員も全員中国語が話せる人に変えた」「(2012年に)李明博(イ・ミョンバク)大統領が独島(日本名:竹島)に行って明洞から日本人客がいなくなった時は中国人客が来て、(2016年の)中国の限韓令(韓流禁止令)で中国人客がいなくなった時は日本人客が来たが、今は誰もいない」と嘆いた。

 「外国人通り」になった明洞は徐々に韓国人客を追い出していった。カフェ「gamoo」を経営するチェ・ギョンヨンさん(60)は「露店や屋台好きの中国人客たちは外で食べる。こういう店に入ってきてもあまり注文しない」「40人で入ってきて、『ちょっと休んで行くから、1杯だけくれ』と言ったり、中国人の家族がベースキャンプのように場所取りをして、買い物した荷物を運び込んだりするということばかりなので、韓国人客たちもますます来なくなった」と語った。明洞8キルのある不動産会社社長は「明洞と言えばまず中国人観光客が思い浮かぶことが問題だ」「新型コロナ問題はなくなるだろうという期待はあるが、中国に対する国民感情のため、明洞を訪れる人はもういないだろう」と見ている。

 こうした間に情緒豊かな明洞の姿は徐々に消えていった。1994年から眼鏡店「EYEDAQ」を経営しているキム・ヨングン代表は「昔は『明洞に行ってきたよ』と言うと、『韓国一の街』に行ってきたという自負心があった」「代々伝わる家業とまでは言わなくても、歴史のある飲食店や貴金属店、紳士服店、眼鏡店も多かった、韓国の高級ショッピング街で、映画俳優たちが歩いている街という情緒が消えてしまった」「常連客の中には、『思い出が消えた』と涙する方々もいる」と話した。

 一時、地価が1坪(約3.3平方メートル)当たり10億ウォン(約9700万円)に迫る「地価韓国一」だった明洞の地価も足を引っ張った。ファン・ドンハ会長は「明洞の物件オーナーたちが家賃を70%まで引き下げても、誰もテナントで入ってこない状況だ」「公示地価は倍に跳ね上がり、今いる人たちも出て行ってしまうのではないかと、物件オーナーたちもテナントに対して『乙(弱い立場)』になってしまい、一言で言えば死にそうなくらいだ」と言った。明洞8キルのある不動産会社社長は「賃貸料は確実に下がったが、だからと言って空室を求める人は全くない」「自分の財産がかかっている問題だが、今のタイミングで、ここで商売しようと冒険する人はいないだろう」と言った。

 新型コロナが終われば明洞は再び復活するのだろうか。ファン・ドンハ会長は「新型コロナ後に明洞を守っていくのは、結局は化粧品だろうが、これまでの間に中国のローカル・ブランドがたくさんできてオンライン輸出販売もしているため、果たして観光客たちが明洞の店に来て化粧品を買っていくのか、それがカギだ」と見ている。キム・ヨングン代表は「明洞の店舗経営者たちが猛省し、昔のように韓国人客がまた来られるような販売アイテム、サービス、政策など、明洞という街の多様性を確保するため努力しなければならない」と語った。

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