政治総合
「言論懲罰法、朴正煕軍事政権も作ろうとしたが撤回」
韓国与党・共に民主党が推進する言論仲裁法改正案について、野党・国民の力はもちろん、与党系の正義党をはじめ、言論・市民団体、学界、法曹界など、保守派か進歩派かを問わず、あちこちから反対の声が相次いでいる。それでも与党は11日、「当初の計画通り25日の国会本会議で改正案を処理する」と強行する意向を明らかにして混乱を招いている。今回の改正案は、法律で「虚偽・操作報道」を規定し、これに対して被害額の最大5倍までという懲罰的賠償を報道機関に課す条項を盛り込んでおり、「批判するマスメディアを事実上無力化させ、表現と言論の自由を抑圧し、政治・経済の権力者が言論にくつわをはめる恐れがある」と批判されている。
■「政治・経済権力が悪用する」恐れ…「軍事政権時代でもできなかった発想」
親与党系団体の民主言論市民連合(民言連)でさえ「権力者が悪用する可能性に対する対応装置が備えられていない」「倍額賠償(懲罰的損害賠償)条項は絶対に修正しなければならない」と主張している。民言連と韓国言論情報学会が同日午後に開催した緊急討論会で、正義党の張恵英(チャン・ヘヨン)議員は「改正案は被害救済よりも政治・経済権力の(言論)封鎖訴訟の根拠として悪用される可能性がある」「2019年の言論関連判決報告書でも、高位公職者や企業などの公人が全訴訟の原告の45%を占めている」と指摘した。民言連のイ・ヨンソン政策委員長は「与党の改正案は言論の自由の侵害を防止できるほど精巧ではない」「この問題を解消しなければ、改正案は市民の役に立たない」と述べた。全国民主労働組合総連盟(民主労総)傘下の全国言論労働組合が先日開催した討論会でも、「言論法が通過すれば、以前の崔順実(チェ・スンシル、国政介入事件の中心人物)の報道はできない」(建国大学ファン・ヨンソク教授)、「ほとんどの記事が虚偽情報との枠に簡単にはめられる可能性がある」(ソン・ジウォン・オープンネット弁護士)など、反対意見が賛成意見を圧倒している。韓国記者協会・寛勲クラブなどの言論6団体は元報道関係者や現職報道関係者を対象に、改正案を撤回させるための反対署名運動を20日まで行う。
■世界報道自由度ランキング韓国42位、中国177位、日本は?
「かつての軍事政権もこれほど頑固ではなかった」との指摘もある。韓国外国語大学のチョン・ジンソク名誉教授は「朴正熙(パク・チョンヒ)政権時代もいわゆる『言論倫理委員会法』により、間違っている報道や気に入らない報道をしたメディアに新聞用紙供給を減らしたり、融資を制限したりして不利益を被らせようとしたが、新聞関係者らや記者たちの反対で頓挫したことがあった」「今の与党は厳しい軍事政権でもしなかったことをしている」と言った。朴正熙政権は1964年の韓日会談に反対する世論を抑えるため言論審議委員会を作り、新聞社に最大6カ月まで停刊処分を下すことができる「言論倫理委員会法」の導入を推進したが、結局廃棄となった。
■言論学者ら「あちこちで『フェイクニュースだ』と主張し訴訟増えそう…結局被害は国民に」
専門家らは、今回の言論仲裁法改正案を、言論の監視機能を事実上委縮させようという「悪意のある言論のくつわ」と規定している。ソウル大学言論情報学科のユン・ソンミン教授は「言論仲裁法改正案という名称をつけてはいるが、実際は文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足当初から作ろうとしていた『フェイクニュース規制法』だ」「『鼻に付ければ鼻輪、耳につければ耳輪』というようなあいまいな『虚偽・操作報道』という概念で批判的なメディアの口にくつわをはめようというもの」と話す。与党はフェイクニュース関連法を作ろうとしていたが、それが頓挫するや、言論仲裁法にこっそり入れ込んだということだ。
事実、与党が作った改正案は「虚偽・操作報道と虚偽の事実または事実だと誤認するよう操作した情報を報道する行為」(法律改正案第2条新設条項)と規定している。しかし、この文言のほかには詳細な規定がなく、果たして何を虚偽・操作報道と見なすのか、論争になることが予想される。このため、政府高官・政治家・大企業など新聞・放送の批判対象になる権力機関が報道に対して恣意(しい)的に「虚偽・操作報道」と主張し、すぐに訴訟を起こすことができるようになるということだ。
例えば、調査報道の場合、報道当時者たちが事実ではないと否定し、数カ月または数年後、裁判を通じて事実だと分かることも多い。最近の裁判を通じて過ちが明らかになっているチョ国(チョ・グク)元法務部長官問題の場合も、メディア報道の段階でいわゆる「封鎖訴訟」を簡単に起こすことができる根拠が法律として作られることになる。
成均館大学法学専門大学院のチ・ソンウ教授は「記者たちが常に訴訟を起こされる危機にさらされて、実質的には何も言えなくなる、いわば『委縮効果』を狙う非常に危険で狡猾(こうかつ)な法律だ」と語った。