済州島4・3事件を題材にした映画『チスル』のポスターには、女性に銃を向ける国軍兵士の姿がある。映画で「スンドク」と呼ばれる田舎の女性は、軍人に銃を向けられ、軍人がためらっている間に逃げ出すもののすぐに捕まってしまう。民家の倉庫に監禁されたスンドクは国軍によって激しい苦痛を与えられる。苦痛と恥辱に耐えられず、銃を盗んで反抗するが、最後には国軍に殺害されてしまう。

 映画で描かれる国軍は、民間人を相手に殺人、強姦(ごうかん)、放火をいとわない。部隊長は老若男女関係なく民間人を銃殺する。軍服を着た連続殺人魔だ。映画は虐殺で始まり虐殺で終わるが、4・3事件の原因となった南朝鮮労働党(南労党)反乱軍による民間人虐殺は全く出てこない。この映画が今年4月、大韓民国国家人権委員会によって「今日の人権映画」に推薦された。

 中国映画『1953金城大戦闘』(原題『金剛川』)は、6・25戦争の終盤、韓国軍が敗れた金城戦闘を題材にしており、中共軍の英雄譚を描いたという。韓国政府傘下の映像物等級委員会はこのような映画の韓国での上映を一度は許可した。しかし映画が問題視されると、配給会社が上映を無期限で延期したという。しかし、この騒動については「いまさら」という反応が多かった。ずっと以前から、韓国社会が作り出す映画は北朝鮮軍を美化し、韓国軍と米軍を侮辱・冒とくしており、そのような映画がヒットしてきたからだ。数百万人の観客を動員し、映画祭を席巻する作品もあった。

 映画『高地戦』は『金城大戦闘』と同様、停戦直前の血闘を描いたものだ。実際の戦闘では多くの韓国軍兵士が小さな領土を守るために命をささげた。しかし、映画の中で国軍司令部は軍人を死地に追いやる冷血漢、国軍の指揮官は戦地で迷っている間に下剋上を食らって命を落とす無能力者として描かれる。国軍兵士は極限で生きるために同僚を殺す卑怯者として扱われる。このような国軍は、高地で入り乱れて戦っていた人民軍と一緒に、米軍の爆撃によって一斉に命を奪われる。韓民族が米軍に一斉にやられるという設定だ。韓国でヒットする映画はこのような設定の映画だという。犬が人間を噛むのではなく、人間が犬を噛んでこそ映画のチケットが売れるというわけだ。

 映画は映画だ。事実をねじ曲げることもあれば、善と悪が変わることもある。しかし、われわれのように侵略されて膨大な被害を受けた場合、映画であっても最低限のラインがあるはずだ。しかし、そのラインを超えなければ商売にならないのだという。ある映画関係者は「『トンマッコルへようこそ』(朝鮮戦争下の1950年代、山あいの村での村人と軍人たちの交流を描いた映画)で、村を破壊しようとしたのが米軍でなく中共軍だったらヒットするはずがない」と話した。制作会社と配給会社、評論家がまずそっぽを向くだろう。敵軍を持ち上げて国軍を侮辱するのが韓国映画のヒットの公式ということだ。

鮮于鉦(ソンウ・ジョン)論説委員

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