トウ小平が改革・開放を初めて開始した分野は経済ではなく、教育だった。清掃作業員などにさせられた学者たちが多数復権し、文化大革命で中断されていた大学入試も10年ぶりに復活させた。中国の大学には西欧思想や技術を伝える英文の書籍があふれた。1978年に北京大学に入学した李克強(後の首相)は手書きの英単語帳をポケットにいっぱい詰め込んで持ち歩いた。1982年に中国でテレビを持っている1000万世帯のほとんどが英BBCの英語学習番組を視聴していた。学問開放と外国語ブームが外資誘致よりも先だった。

 2013年、中国最大の政治行事「両会」(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)では、「英語学習の比重が大きすぎて、学生が中国語を勉強する時間がない」という指摘があった。ある美術大学は当時、「英語ができなければ、絵の才能があっても不合格」という公告文を貼っていたという。「外国の水」に慣れ親しんだ中国の人々は私的な集まりで英語を使った。高官の子どもたちは米国や英国に留学した。習近平国家主席の娘も米ハーバード大学で勉強した。英語が分かるからこそ金も稼げた。ところが、貧困家庭の子や文革を経験した中高年層ではアルファベットも知らない人も多かった。英語は中国社会の格差や不満の一因として浮上した。

 先月、「共同富裕(共に豊かになる)」という格差解消政策を宣言した習近平主席の中国は、民間企業の腕をねじり上げて天文学的な金銭をむしり取っている。中国共産党に目を付けられた電子商取引大手「アリババグループ」が出すことにした「寄付金」だけで1000億元(約1兆7000億円)だ。文革期の紅衛兵による「金持ちたたき」が思い出される。中国共産党は青少年のゲーム禁止や芸能人ファンクラブ閉鎖といった個人の自由を規制することもためらわない。「習近平思想」教育を強制までしている。今や「第2の文革でも始まったのか」という声が上がっているほどだ。

 上海教育当局が地域の小学校の英語試験を阻止した、と米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が報道した。中国の小中学校では海外の教科書の使用が不許可になった。英語の私教育も事実上、禁止された。大学入試試験から英語を外す案も推進されている。大学関係者はNYTに「ジャーナリズムや憲法のように(政治的に)敏感な科目ほど、英語の原書を使用しない雰囲気だ」と語った。英語教育の居場所は中国共産党の理念教育に取って代わられようとしている。西欧の自由と民主思想を直接体得するな、ということだ。

 習近平主席は5年前まで「文革は(中国を)世界と断絶させ、閉鎖された環境を作った」と批判した。自身は文革の犠牲者でもある。そうでありながら、中国を閉ざされた国に引き戻そうとしている。来年の中国共産党総書記3期目続投のための統制措置だ。権力は人を狂わせるという言葉は間違いではなさそうだ。

アン・ヨンヒョン論説委員

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