始発(韓国語の発音:シーバル)…。

 禁句(Fワード)や放送禁止用語(NGワード)のように聞こえるが、抜け道はある。同音異義語だ。クレジットカード会社「BCカード」がこのほど新たに出して話題を集めたクレジットカードの名前は「始発(シーバル)カード」だ。韓国語のNGワードと同音で意味が異なる単語を使った、新社会人向けの新商品だ。この名前は「シーバル費用」というインターネット用語に由来するもの。何かストレスがたまることがあった時、NGワードを発しながらコーヒー・買い物・タクシーなどにお金をかけ、ストレス解消する時の費用という意味だ。

 NGワードは刺激的で、瞬時に関心をさらう。東京五輪でも活躍した国民的人気の女子バレーボール選手・金軟景(キム・ヨンギョン)は試合中に怒りを抑えられず、NGワードを連発するシーンがカメラにキャッチされて有名になった。一部のファンがそのNGワードを発音する際に口の形が似ている「食パン(韓国語でシッパン)」に着目し、金軟景を「食パン姉さん」と呼ぶようになり、東京五輪で金軟景の人気がさらに急上昇するや、総合食品企業「SPC三立」は食パンの新製品「食パン姉さん」を先月発売した。いきさつは複雑だが、結局はNGワードに基づくネーミングによるマーケティングというわけだ。

 NGワードを使った商品が相次いで登場していることから、賛否両論が巻き起こっている。面白さを追求したのに、かえって「不愉快だ」という意見がかなり多いためだ。本紙の依頼でSM C&Cアンケート調査プラットフォーム「tillion Pro」が実施したアンケート調査の結果、成人男女503人のうち、「NGワード・マーケティングに抵抗感がある」と答えた割合が58.3%と過半数だった。「気に入っている」と答えた割合は13.5%に過ぎず、「判断保留」は28.2%だった。抵抗感がある理由の中では、「品がない」が81.3%と最も高かった。会社員が集まる匿名のインターネット・コミュニティ・サイト「ブラインド」では、「始発(シーバル)」の商品化について、「あれで奇抜に見えると思っているのかな? 見れば見るほど低俗だ」という大手証券会社社員の投稿が掲載され、ポータルサイトのコメント欄にも「無難と平凡は淘汰(とうた)され、刺激的なものばかりが中毒になる社会」という批判がときどき見られる。

 語呂合わせによるNGワード・マーケティングが昨日今日の話ではない。1955年に発売された初の国産車の名前も「始発」だった。しかし、こうした言葉を公の場で使用することに抵抗感を抱くケースが徐々に増えているという見方もある。一時、脱権威という風潮の中で流行した「ビビるな、シバ」などの言い方は下火になりつつあるということだ。 2017年に生活用品企業「LG生活健康」が柴犬(シバイヌ)をキャラクターにした歯磨き粉を発売した際、「歯を磨いて寝なさい、シバ」というCMコピーを使って非難された。大手酒類会社「宝海醸造」は2018年の大みそかに「バイバイ! さらば、18年よ」という文をフェイスブックの公式アカウントに掲載したが、NGワードと発音が似ていることから非難を浴びた(18年は韓国語の発音でシッパルリョンだが、よく似た発音の言葉が女性に対する蔑称〈べっしょう〉になる)。大衆文化評論家のキム・ホンシク氏は「大衆メディアで飛び交う露骨なコミュニケーション方式のせいで、言葉に品位を求める人が出てきたようだ」と話す。

 言葉に対する感受性の変化も要因として挙げられる。フェミニズムやポリティカル・コレクトネス(PC=政治的妥当性)などに注目が集まる中、言葉の使い方に厳しい基準が当てはめられるケースが増えた。特にNGワードには女性に対するヘイトスピーチ(憎悪表現)と関連がある言葉が多い。今月1日の国政監査では、文化体育観光委員会のキム・スンス議員=国民の力所属=が「青少年の言葉の暴力の問題が深刻だ」と述べ、次期大統領選挙への出馬を表明した李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事が兄嫁に対しNGワードを発している声を国政監査場で流すという、笑えない状況が展開された。NGワードが増えている理由は「政治家や高官など有名人の暴言が飛び交い、またインターネット上でそのまま国民の前にさらされているためだ」という主張だ。

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