▲マーク・エスパー元国防長官

 米国のドナルド・トランプ前大統領が在任当時、在韓米軍の「完全撤収」を提案していたことをマーク・エスパー元国防長官が明かした。また、当時のトランプ大統領は2018年1月、戦闘兵力を除く在韓米軍家族および非戦闘員全員(4万6000人)を疎開させる方針を決定し、発表しようとしたが、土壇場で立場を変えたという。

 トランプ政権で最後の国防長官を務めたマーク・エスパー氏は、10日(現地時間)に公開した回顧録『神聖な誓い』(A Sacred Oath)で「トランプ前大統領が提案したものの一部は奇異だった」とし「在韓米軍の完全な撤収またはアフリカからの全ての米軍と外交要員の撤収というようなものだった」とつづった。エスパー元国防長官は、トランプ氏が言及した完全撤収については具体的に明かさなかったものの、2018年1月に当時のトランプ大統領によって実現される寸前だった在韓米軍家族および非戦闘員の全員退避計画については詳細に言及した。

 エスパー氏は「(国防長官になる前)米陸軍長官に任命されて2カ月目の2018年1月、国防総省から緊急電話がかかってきた」とし「午後に大統領が在韓米軍の非戦闘要員の疎開方針を発表しようとしている、というものだった」と記した。当時は2017年から続く北朝鮮の核、ミサイル実験に怒ったトランプ大統領が「私の核のボタンの方が(金正恩〈キム・ジョンウン〉のものより)大きくて強力」というツイートをたて続けに行って、北朝鮮に強硬対応していたときだった。

 エスパー元長官は「在韓米軍の家族を退避させるのは、戦争が迫っていることを暗示するものだった。これは韓国経済や株式市場に影響を及ぼすなど、韓国に『パニック』を呼び起こすであろう措置だった」「明確な説明は受けられなかったが、(幸いにも)誰かが大統領を止め、こうした退避方針がツイッターを通して発表されることはなかった」とし、その上で「トランプ大統領の任期序盤、北朝鮮との戦争の可能性は“本当に”存在するものだった」と記した。

 またエスパー元長官は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は中国に傾倒した、と指摘した。エスパー氏は回顧録で「米国と韓国はいずれも北朝鮮の脅威と並び、中国の長期的な戦略的挑戦にも直面している」としつつ「にもかかわらず、ソウルは通商、貿易、地政学という重力によって北京の軌道内に移動するかのように見えた」とつづった。その代表的な事例として、エスパー氏は慶尚北道星州の在韓米軍THAAD(高高度防衛ミサイル)基地問題を挙げた。

 エスパー元長官は、文在寅政権はTHAAD基地について協力せず、THAADを撤収させようとした、と明かした。2017年4月に初めて配備された星州基地の在韓米軍THAAD部隊(ランチャー6基)は、5年間にわたって野戦(臨時)配置状態が続いている。正式配置しようと思ったら環境影響評価を経なければならない。しかし文在寅政権の5年間、進捗(しんちょく)はなかった。施設の改善のための工事資材・装備の搬入が反THAAD団体や一部住民の反対デモで妨げられ、韓国政府が事実上、これを放置したからだ。このため、星州基地で勤務する韓米の将兵およそ400人は依然として、きちんとした場所ではないコンテナなどを宿舎として用いている。

 エスパー氏は「(2017年のTHAAD配備当時)中国の激烈な反応にもかかわらず、朴槿恵(パク・クンへ)大統領はひるむことなく耐えた」としつつ「しかし(文在寅大統領が就任したことで)韓国の立場が変わった。中国側に引っ張られていくかのように見えた」「陸軍長官だった2018年から、数度にわたって韓国側に問題提起した」「そのたびに『もう少しだけ我慢してほしい』と言うだけで、ソウルは行動しなかった」「このとき、韓国が中国を『経済的パートナー』と見なして味方をしつつも、同時に安全保障を理由に米国へ依存するという『不可能な』道を選ぶのではないか-という懸念が(米国政府内で)浮上した」とつづった。

 エスパー元長官は「2020年10月、私のカウンターパートに『THAADを韓半島から撤収する案を考慮したい』と通知した」と明かした。当時、韓国側のカウンターパートは国防部(省に相当)の徐旭(ソ・ウク)長官だった。エスパー氏は、当時韓国側に「これが同盟に対するやり方か」「あなた方の息子や娘がこんな条件で服務すると考えたら、幸せでいられるだろうか」と強い語調で問題提起を行った、と明かした。そうして、傍らにいたマーク・ミリー統合参謀本部議長に「韓半島からTHAADを撤収して他の場所で任務を遂行できるようにする案について、統合参謀本部は90日間調査を行うように」と指示したという。エスパー氏は「外交的なやり方ではなかったが、韓国人を揺さぶる必要があった」とし「米軍は米国だけでなく韓国も守っているのだから」と述べた。この案は、実際には履行されなかった。

 またエスパー元長官は「進歩を旗印とする文在寅政権は、どうやってでも(米国から)戦時作戦統制権(統制権)を回収しようとした」とし「(統制権の移管は)正しいアプローチであり、かつ、米国も支持する案だ。しかし、韓国軍の準備ができているときに移管を行わなければならない」「すぐさま移管した場合、(韓米間の)合同戦争対応の効率に害を与え、これは北朝鮮に対する抑止力にも大きな影響を及ぼす」と記した。

 このほかエスパー元長官は、文在寅政権が2019年の韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄決定を発表したことについては「(韓日間の不和で)北朝鮮や中国が利益を得ている」とし「こうした様子を見たトランプは、うんざりしたように頭を振りつつ『こうも偉大な同盟に価値があるのか』と皮肉っぽく言った」と伝えた。

ワシントン=イ・ミンソク特派員

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