韓国は通商国家だ。貿易で生きる国だ。昨年の韓国の貿易総額は1兆3000億ドル(約176兆円)近くに達した。韓国よりも小さい国で韓国よりも貿易総額が多い国はオランダだけだ。英国やフランスも韓国より少ない。かつての植民地がその宗主国を抜いたか、あるいは近づいた国は、英国を越えた米国、日本とほぼ同等となった韓国の2カ国だけだ。

 人間は誰もが自らの性格に合った職業を選ぶ。しかしその幸運を手にする人はそれほど多くはなく、逆に職業が自分の性格に合わないケースが大部分だ。国の場合もよく似ている。その国どう生きてきたかが、その国特有の国民性を形成する。韓国は1960年代から商品を製造し世界に売ってきた。「士農工商」の身分秩序に捕らわれてきた国から「工商」で国民を食べさせる国へと革命的に生まれ変わったのだ。今も「士(政治家や官僚)」は「工商」の上に君臨しているが、韓国が現在、世界で享受している地位を決めた主体は「工商」の方だ。

 通商国家の歴史をひも解いてみると、その中興の祖として一般的には中世末にイタリアで近代初の都市国家となったベネチアがあげられる。ベネチアからオランダ、英国を経て日本、韓国に通商国家の流れがやって来た。通商国家の寿命は技術が変化する周期と運命を共にする。技術の変化が急激に進む現代は通商国家の寿命も短くなる。他人が生んだひよこを連れてくるようではすでに手遅れだ。自分の翼で新しい技術の卵をかき抱かねばならない。

 通商国家はほとんどが平和を指向する。戦争が起これば武器を売る武器商人以外は店を閉じるしかないからだ。通商国家は正反対の特性も持っている。それはすなわち自らの市場と富を守る強力な軍事力だ。険しい世の中では、塀がずさんな金持ちほど襲いやすい相手はない。17世紀初期に最も豊かだった国はオランダだった。英国の商人たちは実力でオランダ商人に勝てなかった。最終的に英国は4回も戦争を起こしオランダを力で市場から追い出した。通商国家は平和を指向すると同時にハリネズミのような甲冑(かっちゅう)を身につけねばならないのだ。

 通商国家が平和を指向するとは言っても、地域の平和と世界の平和は常に維持されるわけではない。戦争が避けられない場合、通商国家には「どちらの側か」という選択が迫られる。長寿の通商国家の秘訣(ひけつ)はいかなる場合も勝者の側にいることだ。戦争は勝っても負けても同じというわけにはいかない。通商国家にとってどちらでも良いという同盟戦略はない。

 同盟戦略の成否は正確な現状判断にかかっている。どの国にとっても現状判断は国の指導者や政治家の仕事だ。不合理な経済政策は国を衰退させるが、現状判断のミスは国を墜落させる。ドイツと日本は一時輝かしい成長をなしたが、世界情勢を読み違えたためドイツは2回、日本は1回世界大戦を起こし国が占領されるまでに転落してしまった。そのためドイツと日本の現代史を扱う書籍にはそのタイトルの多くに「興亡」という言葉が入っている。

 その反対のケースが英国だ。英国は自国が参加した戦争で痛快に勝ったことがない国だ。第1次と第2次世界大戦はもちろん、ナポレオンを没落させたワーテルローでもギリギリの勝利だ。戦闘の最後にプロシア軍が戦場に戻っていなければ、英国の名勝ウェリントンは敗軍の将になっていたはずだ。

 それ以上に重要な英国の特徴は20世紀初めまで1回も戦争で敗れたことがないという事実だ。国の指導者や政治家が現状を読み違えたことがないのだ。経済は衰退しても、国の指導者と政治家の眼目は狡猾と言えるほど老獪(ろうかい)だった。負けるであろう戦争に英国を追いやらなかった。英国史に「衰退」という言葉は何度も出てくるが、「墜落」という言葉がほとんどないのはそのためだ。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した。韓国が変わり、世界が急変したのだ。NATOは「中国の脅威への対応」を戦略目標に追加した。文在寅(ムン・ジェイン)前政権と同じ流れの政権が今回再び発足していれば、韓国はこの場に招待されなかったはずだ。

 韓国のNATO首脳会議出席は「韓国の選択」を意味する。選択は、意図と目標を伴う行動だ。通商国家である韓国は興亡の岐路に立っている。今後はこれまで韓国が最も自信がなかった「政治と政治家の能力」が国の運命を分けるだろう。戦争で敗れたことのない英国を築いたもう一つの要素が、付和雷同しない冷徹な国民だ。この事実は決して忘れてはならない。

カン・チョンソク顧問

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