▲豪チャールズスタート大学のクライブ・ハミルトン教授が書いた書籍の韓国語版。/写真=朝鮮日報DB

■強力かつ広範囲な「影響力工作」

 だが、外部に表れる公開外交活動は、中国の対韓国工作においては「氷山の一角」にすぎない。より強力で重要なものは、第2のルートである「影響力工作(Influence Operation)」だ。中国共産党内の統一戦線工作部や宣伝部、国家安全部などがここに関与する。

 専門家らは「韓半島は、中国が設定した第1列島線(沖縄-台湾-フィリピン-ブルネイを結ぶ、中国の海上防衛ライン)内に唯一入り込んでいるだけに、中国は『影響力工作』において韓国を外すことはできない」と語る。イ・ジヨン啓明大学教授は、「月刊朝鮮」2022年3月号に寄稿した記事で、中共の手法をこのように分析した。

「中国は、対外的に共産党の実体を徹底して隠し、純粋な民間組織、企業、教育機関、自治体の偽装された外郭組織を表に出して進んでくる。工作の形態は主に『親善』『友好交流』『投資交流』『研究交流支援』などだ。相手国や個人の警戒心を刺激しないためだ」

 イ教授は「中国と関連するほぼ全ての対外関係は、中国共産党(中共)中央が組織的に動員した『超限戦』工作だと見ていい。超限戦(境界と限度を全て超えた戦争)の目的は、中国が相手国に対する政治的・経済的影響力を確保し、社会的分裂を助長して自滅の道へと誘導することで、終局的には世界の覇権を握ることにある」と語った。

 このために中国は、「環球時報」やその英字版の「Global Times」といった姉妹国営メディアまで動員し、随時「外郭たたき」をしている。元「環球時報」編集者の胡錫進は、ぞんざいな暴言で相手国を脅す中国当局の「宣伝前衛兵」だ。

 韓国国内の工作対象は広範囲にわたる。大学教授、研究員、報道関係者、公務員、実業家はもちろん、引退した政治家・高級官僚や、ドラマ・映画・ゲームなど文化産業の従事者、中国関連の団体、果ては犯罪組織まで網羅している。

 匿名のある中国専門家はこのように指摘する。「中国は、適切な名分と場を提示して自然にアプローチし、親交を積む。大多数の韓国人当事者は、自分の威勢を認めてくれる中国の好意をありがたがり、韓国の国益を損なっているという事実すら知らない。中国が諜報活動をしなくとも、重要な情報や事情を中国側にばらまいてやる、一部の韓国人の卑屈で反逆的な動きも問題だ」

■1000万人の「五毛党」…コメントなどでサイバー攻勢

 さらに、第3のルートがサイバー空間だ。2015年に米国へ逃げ、中共の実相を告発してきた実業家の郭文貴は「西側諸国を崩壊させるため中共は、オンライン工作のBlue、賄賂工作のGold、ハニートラップのYellowという『BGY戦略』を用いている」と、このように語った。

「オンライン工作は、SNSでのコメント部隊を動員した世論操作、サイバー攻撃での個人情報奪取やハッキングを含む。フェイクニュースで世論を操作することもあり、当該国の大衆を洗脳しようとしている」

 「五毛党」というコメント部隊は、最初から中国当局の指揮を受けている。コメント1件につき5毛(0.5元。およそ9.9円)から7毛(約13.8円)を受け取る五毛党のメンバーは、北京市内の200万人を含め1000万人を超える。1990-2000年代に生まれた国粋主義的な青年の組織である「小粉紅」も一翼を担っている。

 2020年10月に韓国のボーイズグループ防弾少年団が米国バン・フリート賞を授与された際、その受賞所感に言いがかりを付けて非難コメントをばらまいたのはこの人々だという見方が有力だ。

■韓国人の80%は「中国が嫌い」…「内政干渉」1位

 事案によっては、80万人に達する韓国国内の朝鮮族や在韓中国人留学生の一部も参加しているといわれる。2020年2月、自分は朝鮮族だと身元を明かしたあるネットユーザーが、韓国国内のサイトに「中国共産党が朝鮮族や中国人留学生などを抱き込み、韓国のネット世論を操作している」として「チャイナ・ゲート」を暴露した。

 今年3月には、青瓦台の竜山移転反対の世論を中国が組織・拡散しているという.疑惑も広まった。多数の人間を動員した中共の世論操作が行われたら、韓国人の政治的判断や選択が誤導されかねないというのが現実だ。

 注目すべきなのは、中国の韓国に対する政治介入を認知し、反感を表出させる韓国人が増えているという事実だ。米国の世論調査機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が2022年6月29日に公開した対中認識調査を見ると、韓国人の54%は「韓国の国内政治に対する中国の関与は極めて深刻(very serious)」と回答した。

 これは調査対象19カ国中、同項目で最も高い数字になる。同時に、韓国政治に介入・関与し、時には属国扱いのようなことをする中国の傲慢(ごうまん)な振る舞いに対し、次第に、より多くの韓国人がうんざりしていることの傍証だ。

■「中国に抵抗する韓国の力を弱めることが目標」

 その結果、韓国国民の2022年度中国非好感度(unfavorable view)は80%を記録し、歴史上最も高くなった。2015年(37%)と比べてみると、非好感の比率はわずか7年で倍以上に増えた。この調査で韓国は、19カ国中唯一、青年層の中国非好感度が壮年層を上回った。

 問題は、中国の対韓影響力工作が中止されたり減少したりする可能性は皆無だということだ。クライブ・ハミルトン教授は、著書『『目に見えぬ侵略』にこのように記した。

「インド・太平洋で中国が狙っている主な国はオーストラリアと日本、韓国だ。中共は韓国の学界や政界、言論界、文化界全般で北京擁護論者や融和論者を確保した。中共の目標は、韓国各機関の独立性を損ない、北京に抵抗する韓国の力を弱めることだ」(7-9ページ)

 これは、今後中国の攻勢が一層執拗(しつよう)になり、韓国人の反中感情がさらに悪化することもあり得ることを示唆している。

宋義達(ソン・ウィダル)エディター

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