ロシアのプーチン大統領やウクライナ戦争などに批判的だったロシアの企業経営者が相次いで死亡している。今年に入ってわかっているだけで20人以上だ。ロシア政府は「自殺あるいは事故死」と説明しているが、欧米の情報機関やメディアは「ロシア政府が介入した他殺の可能性もある」との見方を示している。

 ロシア最大の食肉加工会社「ウラジーミル・スタンダード」の創業者で副社長を務めるパヴェル・アントフ氏(65)は24日、インド東部オディシャ州ラヤガダのサイ・インターナショナルホテル3階バルコニーから転落し遺体で発見された。英BBCやAFP通信など外信が27日(現地時間)に報じた。直接の死亡原因は外傷と大量出血だという。事件を捜査しているオディシャ州検察は「アントフ氏は(一緒に旅行していた)友人のウラジーミル・ブダノフ氏の急死にショックを受け、ホテルのバルコニーで落ち込んでいた時に足を踏み外した可能性がある」と説明した。検察はさらに「自殺など様々な可能性を念頭にロシア領事館と協力しながら捜査中」とも明らかにした。

 アントフ氏はロシアではソーセージなど食肉加工業で財を成したことで有名で、自らの誕生日(22日)を迎え友人3人と旅行中だった。このホテルには21日から宿泊していたという。現地の警察は「アントフ氏は自らの誕生日に親しい友人のブダノフ氏がホテル1階の自分の部屋で遺体で発見され、大きなショックを受けていた」と明らかにした。ブダノフ氏は発見された当時、部屋の中は空の酒の瓶でいっばいだったという。警察はこのような状況を根拠にブダノフ氏の死因を酒と薬の飲み過ぎによる心臓マヒと推定している。ブダノフ氏の遺体はロシア領事館の承認を受け24日に現地で火葬された。ところがその同じ日にアントフ氏も不可解な死を遂げたのだ。ロシア領事館は「警察は他殺を示す特別な証拠は見いだせていない」と主張している。

 今年6月にロシアがウクライナの首都キーウを爆撃し、複数の民間人が犠牲になった直後、アントフ氏は自らのワッツアップのアカウントに「これはテロと言わざるを得ない」と主張した。ワシントン・ポストなど複数の欧米メディアはこの事実に注目している。この書込みはしばらくすると削除されたが、ロシア国内の政府系メディアは「非愛国的行為」としてアントフ氏を激しく非難した。アントフ氏は後になって「他人の書込みが間違って記載された」「私は愛国者であり、プーチン大統領の支援者だ」と主張した。アントフ氏はモスクワ東部ウラジーミル州の州議会議員であり、プーチン大統領の所属政党「統一ロシア」の党員でもある。

 英国の日刊紙ガーディアンは「ロシア政府とウクライナ戦争に批判的な言動を行ったロシアの企業経営者が死亡する事態が相次いでいる」として疑問を指摘した。アントフ氏の死にロシア政府が介入した可能性があると見ているのだ。今年1月から最近までに死亡したロシアの企業経営者は合計21人に達するが、その多くがロシアのエネルギー関連業界の経営者で、誰もが共通してウクライナ侵攻に伴う欧米の制裁や企業の経営難に深刻な懸念を表明してきた。

 その代表的な人物がガスプロムバンク元副社長のウラジスラフ・エバエフ氏(51)だ。エバエフ氏は今年4月にモスクワ市内の自宅で妻(47)と末娘(13)と共に銃殺され遺体で発見された。ガスプロムバンクはロシアのエネルギー企業ガスプロムの子会社で、ガスプロムの実質的な金庫の役割を果たしており、エバエフ氏もガスプロムの資金の流れに非常に詳しい人物として知られていた。モスクワ警察は事件直後「遺体が発見された当時、彼の手には拳銃があった」と説明している。エバエフ氏が最初に妻と娘を殺害し、それから自殺したと推定しているのだ。しかしエバエフ氏が自殺した理由については何も説明していない。

 さらに7月にはガスプロム系列の運送会社「アストラ・シッピング」の代表ユーリ・ボロノフ氏(61)がサンクトペテルブルク郊外の自宅プールで頭を銃で撃たれ死亡した。現場には拳銃と複数の薬莢(やっきょう)が残されていた。アストラ・シッピングはロシア有数の運送会社で、ガスプロムと共に北極ガス田の開発に関わっていた。9月にはロシア第2位の石油会社ルクオイルのラビル・マガノフ会長(67)がモスクワ市内にある入院先の病院6階から転落して死亡した。ロシアの司法当局は「マガノフ氏はうつ病の薬を服用していた」として自殺した可能性があるとしているが、欧米のメディアは「マガノフ氏の側近は誰も彼が自殺した可能性など信じていない」と報じた。マガノフ氏は今年3月に会社のホームページで「ルクオイルの取締役会はウクライナ戦争に深い懸念を表明する」として戦争の早期終結を訴えていた。

パリ=チョン・チョルファン特派員、キム・ナヨン記者

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