▲2023年4月20日、京畿道金浦市内の「キム・チャンス・ウイスキー蒸留所」で、新たに開発中のウイスキーをグラスに注ぎ、香りを確かめるキム・チャンス代表。キム代表は韓国人初のシングル・モルト・ウイスキー生産者で、自身の名を冠した3種類のウイスキーを韓国の酒類市場に出した。キム代表の後ろに見えるオーク樽ではウイスキーの熟成が行われている。写真=キム・ジホ記者

 昨年4月、韓国国内の酒類市場に「キム・チャンス」と書かれたウイスキーが登場した。その下には「我が国でもウイスキーを作っている」という文も書かれていた。「キム・チャンス・ウイスキー」と呼ばれるこのウイスキーは初出荷分336本が十日間で完売し、「コリアン・ウイスキー」とも呼ばれるようになった。今年2月には3番目のキム・チャンス・ウイスキーが販売されると聞き、ソウル市江南区内のコンビニエンスストア前に二日前からウイスキーを買おうと数十人が集まった。

 キム・チャンス氏は韓国初の韓国人ディスティラー(蒸留酒生産者)であり、「キム・チャンス・ウイスキー蒸留所」の代表だ。100%大麦麦芽(モルト)を使い、一つの蒸留所で生産した「シングル・モルト・ウイスキー」を作る韓国人はキム代表だけだ。

 先月20日、京畿道金浦市にある蒸留所で会ったキム代表は「来年下半期ごろ、熟成年度3年物の製品を正式に発売する予定だが、欧州・日本・台湾などの海外市場を狙ってみたい。酒の名前も『キム・チャンス・ウイスキー』ではなく、新しいブランド名を付ける」と語った。

 20歳の時から酒を作るのが夢だったというキム代表は、2014年に当てもなくウイスキーの本場スコットランドに向かった。醸造所102カ所をすべて回り、仕事をさせてほしいと頼んだが、就労ビザを取るのが難しいという理由で全て断られた。韓国に帰ってきたキム代表はスコットランドで知り合った日本の蒸留所「秩父蒸留所」のスタッフに「日本で働かせてほしい」とメールを数回送ったが返事がなかった。仕方なく家の中に小さな醸造所を作って自らウイスキーを作り始めた。キム代表は「酒を作る過程を書いたブログを見た日本のNHKソウル支局から取材オファーが来た。おかげで日本の秩父蒸留所で研修するチャンスをつかむことができた」と話した。

 勤めていた酒類会社を辞めて2020年7月、金浦市内に「キム・チャンス・ウイスキー蒸留所」を開き、2022年4月に初めてウイスキーを出荷した。キム代表は「スコットランドより昼夜の気温差が大きい韓国では、比較的熟成速度が速い」「3年物のウイスキーで10年物の風味を出すことができる」と言った。ウイスキー評価サイト「WHISKYFUN(ウィスキー・ファン)」はキム・チャンス・ウイスキーに87点を付け、「日本から材料を持ってきたのではない、本物の韓国ウイスキー」「K-POPに次ぐK-malt(Kモルト)」と評価した。1本20万ウォン(約2万円)前半で売られているキム・チャンス・ウイスキーだが、最高で200万ウォン(約20万円)で転売されるほど人気だ。

 だが、キム代表は「今まで930本売ったが、1カ月に数千万ウォン(数百万円)かかるコストを考えれば、借金がかさむばかりだ。お金を節約するため、私が設計し、組み立てた設備を自ら修理しており、1週間の半分をここで徹夜している」と語った。スタッフは友人1人だけで、現在の施設では生産量を増やすことも難しい。キム代表は「今の生産規模ではお金を稼げない」と言いながらも、「独立系の映画をうまく作れば投資を得て商業映画が撮れるように、ウイスキーを上手に作るということだけを示せばうまくいくだろう」と語った。

 キム代表は最近の韓国のウイスキー・ブームについて「所得がある程度増えると、ビールのような大衆的なアルコール類の次に流行するのが、価格もアルコール度数も高い蒸留酒、その中でもシングル・モルトだ」「ウイスキーは需要が増加しても生産量を増やせないため、当分の間は流行が続くだろう」と話した。そして最後に、「韓国産高級ウイスキーが競争で不利なのは、価格に比例して税金を課す従価税も一因だ」としながらも、「海外のウイスキーと競い合っても遜色(そんしょく)のない製品を出していく」と言った。

イ・ミジ記者

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