▲北朝鮮産の水産物が堂々と売られている丹東の水産市場。/写真=イ・ボルチャン特派員

 4月20日、朝中最大の貿易拠点である遼寧省丹東市の東港(県級市)。ここで会った水産物加工工場の社長Aさんは「昨年下半期から北朝鮮産水産物が入ってき始めた。このごろは工場の従業員500人が残業をしないといけないほどに大量」と語った。Aさんは、写真を撮らないという条件で工場内部の映像を5本見せてくれた。数百人の従業員が明るい照明の下で一列に並んで立ち、アサリやタイラギ、ニナ貝、タコなどをさばく様子が見られた。Aさんは「北朝鮮の元山・羅州付近の海で取れた水産物がうちの工場を経て韓国や米国などに売られている」とし「今、韓国の加工食品に入っているニナ貝のうち相当数は北朝鮮産のものだろう」と語った。

 新型コロナで2020年初め以降停滞していた朝中間の経済交流が次第に再開されるにつれ、国連の制裁を破った北朝鮮産の物品が中国で流通し始めた。真っ先に中国へ流れ込んでいるのは北朝鮮産の水産物だ。丹東にはおよそ40の水産物加工工場があるが、このうち5-6カ所が北朝鮮産水産物を専門的に取り扱っているといわれる。

 丹東の水産物市場では、制裁の対象となっている北朝鮮産のタコや貝が堂々と売られていた。東港最大の水産物市場「東港黄海水産品批発(卸売)市場」のある店舗に入って「北朝鮮産海産物を見たい」と言うと「このごろは北朝鮮産のホタテ貝が新鮮で、よく売れる」という答えが返ってきた。付近の別の店舗では、漁網にマダコを4-5匹ずつ入れて売っていた。原産地を尋ねると「どこから来たか知らないが、われわれは当地(現地)だと言っている」と、北朝鮮産であることをほのめかした。この日、市場で売られているホタテ貝は1斤(約600グラム)5.5元(現在のレートで約106円。以下同じ)、ニナ貝は20元(約386円)、マダコは30元(約579円)だった。

 北朝鮮の水産物輸出は2017年12月に安保理制裁で禁止され、中国海関(税関)の公式統計において北朝鮮産水産物の輸入は「0」と表示されている。実際にも、2020年1月の新型コロナ拡大以降は北朝鮮産水産物も中国にほとんど入ってこなくなった。しかし昨年下半期から、北朝鮮海域で取れた水産物を中国の船が海上で積み替えてもらい、「中国産」として流通させるケースが大幅に増えた。水産物はかさばる石炭と違って運搬が容易で、原産地の区別も不可能なため、国境開放の動きとともに北朝鮮制裁の「抜け穴」になっているのだ。制裁前まで、水産物は対中輸出品の中でも石炭・繊維に続いて最も規模が大きかった。年間1億5000万ドル(約201億円)相当を輸出し、「外貨稼ぎ」役として良い仕事をしていた。

 丹東の大型卸売市場では、北朝鮮の貿易省が少なからず目撃された。4月19日、丹東のある大型卸売市場では、北朝鮮の旗(人共旗)を掲げて北朝鮮貿易商を相手に呼び込みをする店舗を見ることができた。この日、衣類売り場で見掛けた北朝鮮貿易商の男女は「チャックが全然駄目だからあと5元(約96円)は値下げしないと」と、中国人卸売商と価格の話し合いをしていた。向かい側のスポーツ用品店では、また別の北朝鮮貿易商の男女が5-6個の卓球用ラケットを種類別に広げて見せて製品の品評をしていた。中国人の卸売商は、別の客が店をのぞき込んでも気にすることなく北朝鮮貿易商の対応にのみ集中した。丹東の消息筋は「北朝鮮貿易商は、一度に数千元(1000元は約2万円)相当の取引をするのでVIP待遇を受けている」と語った。

 今後、中国・北朝鮮間の陸路および鉄路の運行が正常化して国境が全面開放されたら、北朝鮮制裁の抜け穴は抑えようもなく大きくなるだろうという懸念が浮上している。国連の制裁対象から除外されているのは北朝鮮観光、賃加工製品くらいだ。北朝鮮が経済回復を図るためには、制裁品目を中国でひそかに売り買いするしかない状況だ。北朝鮮が開城工業団地内の工場に中国資本を引き入れようとしている状況もキャッチされている。

 中国との交易がほとんど途絶えた北朝鮮の食糧難と経済悪化は深刻で、臨界点に迫っているといわれる。昨年9月の丹東-新義州間における汽車の運行再開も、北朝鮮側が中国に食糧など「七つの品目」を緊急に要求し、朝中の高官クラスが丹東で会談した直後に実現したといわれる。丹東の消息筋によると「今年1月にも、北朝鮮在住の華僑50人以上が、現地の事情に耐えられず中国に渡ってきた」と語った。

北京=イ・ボルチャン特派員

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