▲共に民主党は、7月6日から韓国国会のローテンダーホールで「尹錫悦政権汚染水投棄反対宣明促求非常行動」集会を開き、1泊2日の徹夜籠城に入った。/写真=ニュース1

 「デマは国境を越えない」という事実を確認させられたのは、2008年の「狂牛病(牛海綿状脳症・BSE)問題」のときだった。当時、恐怖を扇動していた勢力には論理のあらが山ほどあったが、その中でも致命的な自己矛盾があった。米国産牛肉が危険だというのに、当の米国人は微動だにしていない、という点だった。「脳にぷすぷす穴が開く」ことになりかねないのに、米国人はなぜ立ち上がらないのだろうか。米国人は自国産の肉だからそうなんだとしても、数百万人の在米韓国人や韓国人留学生、駐在員らはなぜ黙っているのか。米国へ出かける大勢の旅行客は、ハンバーガーやステーキで食事をするために命でも懸けていたというのか。

 当時、民主党議員らが国政監査でワシントンの韓国大使館に行き、カルビとユッケジャンの夕食を取ったという事実が判明した。もちろん米国産牛肉だったが、一行が食事を拒否したという話はなかった。「いっそ青酸カリを飲む」と言っていた女優は、ロサンゼルスでの撮影中にハンバーガーを楽しむ写真が公開された。同じ牛肉が、米国では平気で、韓国に来ると危険になるのか。この基礎的な質問に、デマ勢力は沈黙するか、あるいは別のうその論理で話をそらした。国内政治目的で創造されたデマだから、国境を越えた瞬間、通用しなくなるのは当然だった。

 あのときと全く同じ政党、全く同じ団体が、全く同じ手法で福島の問題にたかってきた。「核廃水」「毒劇物」「放射能テロ」と恐怖心をあおっているが、15年前と同じく、彼らが答えられないジレンマがある。当の日本は静かだという点だ。

 福島の問題の核心は、汚染水がほかならぬ日本の領海に放流されるということだ。正確には、福島沖1キロの地点だ。あまりにも当然の話だが、汚染水が危険であれば、最も直接的に被害に遭うのは日本だ。この水が韓半島の海域に到着するには海流に乗り、太平洋を半周して4-5年かかる。逆に日本周辺の海にはすぐ混じる。首都東京は放流地点からわずか200キロしか離れていない。北海道をはじめ、太平洋側の沿岸は全てその影響圏に入っていると見ていい。

 ところが現在、日本で汚染水放流はイシュー(問題点、関心事)にすらなっていない。メディアはほとんど報じておらず、社会的論争が起きてもいない。日本のポータルで「汚染水」を検索すると、韓国発のニュースを翻訳・引用した内容がほとんどだ。衆議院に1議席しか持たない社民党を除くと、放流を止めるという政党はない。水産物への打撃を懸念する漁民団体が「放流反対」の立場を表明しているが、彼らもまた行動に出てはいない。まれに行われる反対デモは、参加者が100人ほどに過ぎない。韓国では「毒劇物」がまかれると騒いでいるが、当事者である日本は動揺もしていない。

 日本国民は安全問題に神経を使わない「ばか」なのだろうか。官の方針にきちんと従う大勢順応的な国民性のせいでもあるだろう。しかし、いくら順応的であっても、自分の命まで犠牲にする国民はこの世にいない。子孫まで代々の命と健康が脅かされると思ったら、日本人も当然反発し、抵抗する。彼らが汚染水の放流を受け入れているのは、「ばか」だからではないのだ。科学的に問題ないという公的な説明を信じているからだ。政府を信頼し、科学を信奉しているということだ。

 日本政府は、自国の領海に「毒劇物」をまき散らす狂った集団なのだろうか。日本の支配層が判断の錯誤を犯した“黒歴史”はしばしばあるが、彼らが故意に国を亡ぼす考えを持つはずはない。韓国のデマ勢力の陰謀論のように、たかだか数千億ウォン(1000億ウォン=現在のレートで約109億円)を惜しんで危険な海洋放流を決定したというのか。周辺の国を苦しめるために自国の海から放射能で汚染する自害テロをやるという話なのか。日本の科学者らは皆そろって臆病者なのだろうか。世界の5大ノーベル賞受賞国である日本の科学界が一斉に良心を捨てて真実を隠蔽(いんぺい)しているのか。

 汚染水放流を喜ぶ人間はいない。何か気にかかるからだ。しかし、取り得る処理方法の中で海上放流が最も安定しているというのが、科学界の共通した結論だ。民主党が主張する「コンクリート個体化」方式は、技術的に不安定な上、大気中への放射能放出を防ぐことができず、海洋放流よりも危険だという。デマ陣営は日本を、はした金を惜しんで自国民の生命を犠牲にする未開の国と考えているようだ。日本を劣った後進国扱いして陰謀の翼を広げる無謀さは驚くばかりだ。

 彼らの論理によると、米国もまた異常な国だ。福島の放流水は海流に乗って北東方向へ移動し、まず米国西海岸に到達することになる。2011年の大地震のときも、福島から流れていったブイや漁船、冷蔵庫などの残骸がカリフォルニアやオレゴン、アラスカの海辺で発見された。それでも米国は、汚染水の放流に賛成するという。米国も後進国なのか。この質問に、民主党やデマ陣営は答えない。どうせ政治攻勢が目的なのだから、他の国がどうあろうと関心もないのだろう。

 デマは決して国境を越えられない。虚構とうそが乱れ飛ぶ場から目を外へと向けてみれば、何が真実で何が真実でないか、明らかになることを意味している。

朴正薫(パク・チョンフン)論説室長

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