■北朝鮮で公演…金正日総書記「韓服は南朝鮮の方がきれいだ」

 「韓服は南朝鮮(韓国)の方がきれいじゃないですか?」。2001年4月、北朝鮮の招待で平壌公演をしたキム・ヨンジャさんに、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が話しかけてきた。韓国人歌手としては初めて北朝鮮で単独公演を行ったキム・ヨンジャさんは、金正総書記に会う場へ行く際、韓服を着て行った。北朝鮮の平壌高麗ホテルで手に入れた絹の生地を使い、北朝鮮のデザイナーが仕立ててくれた韓服だった。生地は自分で選んだ。日本での公演では韓国の生地を使って作った韓服を着たが、北朝鮮では配慮して北朝鮮の生地で韓服を作った。「自分たちの所の物なら、いっそう喜んでくれるだろうと思ったんですが、(北朝鮮の人々は)正直に話してくれました。『実は生地が昔の織り方なので、厚いし重いし楽ではなかったんですよ』と」

 キム・ヨンジャさんは金正日総書記が一番好きな歌手だそうだ。平壌公演では『七甲山』『旌善アリラン』や、北朝鮮の歌『口笛』『イムジン河』などを歌った。『私たちの願いは統一』も北朝鮮の観客と一緒に歌った。それ以前も訪朝芸術団はあったが、単独で公演した歌手はキム・ヨンジャさんが初めてだった。キム・ヨンジャさんの声量に金正日総書記は驚いたという。翌年も再び単独公演を行った。再度、金正日総書記から招待があったからだ。

 キム・ヨンジャさんは韓国の歌手だが、北朝鮮では日本の歌手として、日本では北朝鮮の歌手として紹介されたこともあった。日本では、韓国生まれで北朝鮮に渡った朴世永(パク・セヨン)作詞の『イムジン河』をキム・ヨンジャさんが歌ったため、「北朝鮮の歌手だ」と非難された。「『NHKの番組なのに、なぜ北朝鮮の歌手が出ているのか』と抗議が殺到しました」。歌を歌っただけで日本と北朝鮮の間の政治的な問題に巻き込まれるとは想像もしていなかった。キム・ヨンジャさんはその時も今もこう言う。「私は韓国人のキム・ヨンジャです。これまでも、今も、これからも私は同じです」

■『アモール・ファティ』の大ヒットで老若男女誰もが知る歌手に

 キム・ヨンジャさんはさまざまなヒット曲のうち、一番大切にしている「宝物」に『アモール・ファティ』(運命愛の意)を挙げた。2013年にリリースされたこの曲は、その4年後に突然、チャートを席巻した。若者たちがビートのきいたエレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)調のこの曲に夢中になり、リリースからかなりたってヒットしたのだ。

 ありがたい歌だった。日本で人気歌手として活動していた間に、韓国での居場所は次第に消えていっていた。2009年に『10分以内に』というヒット曲を出したが、曲は知られても、「キム・ヨンジャ」という名前はあまり広がらなかった。そうした中で『アモール・ファティ』が突然、チャートを席巻し、「キム・ヨンジャ」の名が再び知れ渡ったのだ。若者の間で人気を集め、大学祭にも呼ばれるようになった。

 日本では韓服の衣装にこだわっていたが、韓国ではパンツスーツに変わった。軽快で楽しい歌とステージ・パフォーマンスが人気になったため、華やかなパンツスーツとショートヘアのウィッグがキム・ヨンジャさんの新たなシンボルになった。それでも、華やかな花柄はデビュー時と同じだ。

 キム・ヨンジャさんは「最近、一番大事にしている韓服」とパンツスーツの衣装を見せてくれた。韓山カラムシ(忠清南道・韓山特産の植物カラムシを材料にした織物)の職人が一針一針精魂込めて作ったという。ハングル文字が金糸で刺しゅうされており、ラインストーンも華やかに輝く。キム・ヨンジャさんは6月末、日本で公演を行う予定だ。8月には新曲のリリースも計画されている。彼女の人生を彩った、日本で大事に着ている韓服をまた着るつもりだ。「今、また韓服を取り出して着る時が巡ってきました。胸がときめくままに生きる『アモール・ファティ』が再び繰り広げられるでしょう!」

崔宝允(チェ・ボユン)記者

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