▲写真=NEWSIS

 「なぜあの選手は一人だけ『挙手の敬礼』をしているんですか?」

 これは先月24日、杭州アジア大会のサッカー男子グループリーグで、韓国の試合を見ていたあるインド人記者に問いかけられた時の言葉だ。他の選手たちは皆、胸に手を当てていたが、ある選手だけは一人で「挙手の敬礼」をしていた。その選手はサッカー男子韓国代表のチョ・ヨンウク(24)だ。チョ・ヨンウクは韓国軍体育部隊サッカー部として創設され、現在はプロサッカークラブである金泉尚武FC所属の兵士(上等兵)であるため、軍人式の敬礼をしたのだ。しかし、次の試合からはそうする必要はない。今回のアジア大会の金メダル獲得で、チョ・ヨンウクは残りの兵役期間(10カ月間)が免除され、早期除隊できることになったからだ。

 杭州アジア大会が8日に閉幕した。これを受けて、同大会の金メダリストに与えられる兵役免除の恩恵について、新たな議論が必要だという指摘が出ている。1試合も出場していない選手が「タダ乗り」で兵役免除の恩恵を受けたり、オンラインゲームの「eスポーツ」や囲碁も正式種目に採用され、ゲーマーや囲碁棋士まで兵役の義務を免除されたりする状況が生じていることから、「果たしてこの制度(アジア大会金メダリストに対する兵役免除)は何のためにあるのか」という疑問だ。もともとは1973年に芸術・スポーツ界関係者に対し、「韓国を国際社会に知らしめる国威発揚」のモチベーションになるように導入したものだが、制度を作った当時はアジア大会の金メダルが16個(1974年大会)に過ぎなかった。しかし、今は最多で96個(2002年大会)に達するほど金メダルの位置付けも変わってきている。

■兵役免除の手段として

 アスリートの兵役免除は当初、その範囲が五輪メダルや世界選手権はもちろん、アジア選手権3位以内、さらにはユニバーシアード3位以内までだった。当時は該当者がそれほど多くなかったが、スポーツ選手の競技力が向上して対象者が急増するや、制限がかかった。

 1990年からは五輪3位以内とアジア大会1位にのみ兵役特例を与えた。彼らは4週間の基礎軍事訓練を受け、自身の活動分野で奉仕活動を544時間すれば、兵役を務めたものと認められる。それでも、2002年ワールドカップ(W杯)サッカーのベスト4入りや、2006年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)ベスト4などを達成した選手たちにも「兵役特例を与えよう」という世論が一部で盛り上がり、臨時規定を作って恩恵が与えられたことがある。

■試合に出なくても兵役免除

 アジア大会は種目によっては金メダルがそれほど取りにくい国際大会ではないことが結構ある。その代表的な例が野球だ。韓国以外の参加国はほとんどアマチュア選手が出場するため、兵役問題を解決できていないプロ選手が出場する韓国にとって、アジア大会は「合法的な兵役ブローカー」と言ってもいいのが実情だ。比較的簡単に金メダルを取ってきたため、兵役免除を狙って出場するプロ野球選手も少なくない。

 これまでも、負傷を隠して出場し、ほとんど試合に出ずに兵役免除資格だけ得たという疑惑が持たれている選手がいた。今回も投手・郭彬(クァク・ピン、24)=斗山ベアーズ=は「背中を痛めた」と言って投球しなかったが、韓国代表チームが金メダルを取ったため、兵役免除の恩恵にあずかることになった。アジア大会前、野球の韓国代表チームに対して、インターネット上に「銀メダルを祈る」などの投稿が相次ぐのも、こうした理由からだ。

 ゴルフも同じだ。今回のアジア大会からはプロゴルファーも出場できるよう規定が変更された。シーズン中なので、女子プロゴルファーたちはほとんど出場していないが、米プロゴルフ(PGA)ツアーでプレーする任成宰(イム・ソンジェ、25)=世界ランキング26位=と金施佑(キム・シウ、28)=同40位=は出場した。他の国はアマチュア選手しか出場していない。兵役免除が狙いであることは明らかだった。韓国はプロゴルファー2人が出場し、予想通り男子団体戦で金メダルを獲得、2人は狙い通りの成果を挙げた。任成宰は「PGAツアーにいっそう集中してロングランできる気がする」と感想を述べた。

■種目が増え続け、兵役免除対象が拡大

 さらに問題なのは、アジア大会の競技種目がますます増えていることにある。今回も問題になったeスポーツの他にも囲碁、ブレイキン(ブレイクダンス)、カードゲーム(ブリッジ)、チェス、シャンチー(将棋の一種・デモンストレーション種目)などまで含まれ、「これが果たしてスポーツなのか」「アジア大会はもはやスポーツ大会ではない」という議論も取りざたされているのが実情だ。

 今大会のeスポーツ「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」で金メダルを取り、兵役特例を受けることになった「チョビ」ことチョン・ジフン(22)は「いい時代に生まれて感謝している」とコメントした。西江大学のチョン・ヨンチョル教授(スポーツ心理学)は「(兵役特例の規定は)かつて(選手たちの)実力を向上させるために考案された極端な手段だ」「結局は公平性の問題だ。国威発揚だけを考えれば、世界的な男性アイドルグループのBTS(防弾少年団)はなぜ入隊したのだろうか。時代遅れの法律を見直す必要がある」と語った。

イ・ヨンビン記者、杭州=パク・カンヒョン記者

ホーム TOP