理性よりも感性を刺激 韓国左派特有の「感性売り」…支持層はさらに強固に

 最近、韓国政界では数枚の写真が話題になった。第22代国会の議員になる祖国革新党の曺国(チョ・グク)代表が、大人の体くらいの大きさのごみ袋を自ら捨て、列車に乗るため列に並び、子どもと目の高さを合わせてひざまずいてサインしてやり、お盆を持って飲食店に座る様子などを収めた写真だ。

 これらの写真を巡っては「ごみもスーツ姿で捨てるなんて」「割り込みしないのが正常」「演出された写真でショーをするのか」「それなら配膳トレーも補佐が持ってやるべきなのか」などの批判が降り注いだ。だが「さすが、とてもすてき」「尊敬する」とコメントして曺国代表を持ち上げる支持者も大勢いた。中でも目についたコメントは「文在寅(ムン・ジェイン)前大統領を見ているみたい」というものだった。一種のデジャビュ現象だ。文・前大統領と曺代表を同一視しながら、野党支持層は熱狂した。

 理性よりも感性を刺激して支持を引き出す、いわゆる「感性売り」戦略は、左派で主に用いられてきた。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権はそうであったし、文在寅政権の5年間もこうしたマーケティングを背景に支持率40%台を維持したと言っても間違ってはいない。弾劾後に発足した文在寅政権初期は特にそうだった。ジャケットを脱いでワイシャツ姿になった文大統領が片手にコーヒーを持ち、ブレーン陣と並んで青瓦台(当時の韓国大統領府)内を散策していた姿を、多くの人が記憶しているほどだ。当時は民情首席・曺国、秘書室長・任鍾晳(イム・ジョンソク)などと共に「青瓦台F4(花の4人組)」と呼ばれたが、この呼び名がその時出てきた。

 文大統領はしばしばペットと共に過ごし、書類がどっさり載った机にぼさぼさ頭でよりかかったり、休暇に出掛けても本を読み、青瓦台見学に来た市民と執務室の窓からあいさつを交わしたりした。別に知らなくてもいいようなことをわざわざSNS(交流サイト)で公開することの裏には、一定の政治的計算が隠されている。しかし大衆は、気さくな近所のおじいちゃんのような大統領に歓呼した。文大統領が母親と手をつないで歩く後ろ姿の写真が公開されたときは「無性に涙が出て泣いた」というコメントが相当数付いた。

 白髪頭で平凡なシャツを肘までまくり上げ、スリッパを履いた文大統領の姿に、あるネットユーザーは「お母さんの前ではひたすら、平凡な息子に過ぎないんですね」とコメントした。「私たちのイニ(文・前大統領の愛称)、やりたいことをやって」というような流行語は、わけもなく出てきたものではなかった。あのころ、青瓦台関係者は「否定的世論があっても、『演出の達人』卓賢民(タク・ヒョンミン)元儀典秘書官を守った理由があったんじゃないだろうか」「彼は大衆を泣かせたり笑わせたり怒らせたりする方法を本当に理解していた。一言でいえば、人を魅惑する才があり、悪く言えば目と耳を遠ざけるようなもの」と語っていた。

 左派特有の「感性売り」は、その効果が絶大だ。課題の論点をぼかさなければならないとき、一層輝きを放ち、結果として合理的な理性をまひさせる。朴元淳(パク・ウォンスン)元ソウル市長は2011年、政界入りを前に、長年履いてかかとがすり減った靴を公開して庶民イメージを構築し、市長に当選した。韓明淑(ハン・ミョンスク)元首相は、違法政治資金授受の罪で懲役2年の刑に服した後も『韓明淑の真実:私はああいうふうに生きてこなかった』を出版し、今でも支持者らは彼女の無罪を主張する。大衆は、実体を知った後に「もうだまされるまい」と考えるが、それでもまた「感性売り」に心を奪われる。

 こうした心理は、曺代表が最もよく理解しているらしい。何度もSNS絶筆宣言をしながらSNSを手放さないのも、これと無関係ではない。野党関係者は「文・前大統領と曺代表の感性政治は、李在明(イ・ジェミョン)代表にはまねのできない、外見に漂い出る何かがある」と語った。曺代表は、子どもの入試不正疑惑で騒然とした中でも著書『曺国の時間』を出版し、自分が血を流しながら歩いている絵を載せたかと思えば、ジムで懸垂をしている動画をアップロードした。こうして支持者を集めた。与党側は「奇怪だ」「そんなことしてみたところで犯罪者ではないか」という声で攻撃した。保守の支持者は「いまだにこんな操作扇動に乗せられる人間がいるのだから、あちらはいつもこうした手法を使う」と批判した。

 しかし、祖国革新党は今回の総選挙で12議席を得た。曺代表は最近、ある次期大統領選ランナー選好度調査で7%の支持を得て3位に付けた。そして一部の野党支持者は自分たちの立場から、文在寅政権のナンバー2だったのにさまざまなさげすみを受けた曺代表に、文・元大統領の姿を見いだしている。曺代表は、子どもの入試不正および青瓦台監察もみ消しの罪などにより控訴審で2年の刑を宣告された。大法院(最高裁に相当)の判決次第で、曺代表の未来が180度変わることもあり得る。そのときまで、曺代表の感性政治は続くものとみられる。

 最近、盧・元大統領の生家がある烽下村を訪れた曺代表は、傘も差さずに雨に打たれながら、涙を拭っているのか雨を拭いているのか分からない写真を掲載した。支持者らはコメントで「盧大統領、ご覧になっていますか?」「代表、やりたいことは全部やってください。私たちは肩を組んで共にあります」と書き込んだ。

キム・アジン記者

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